
生命科学に関連した研究および応用分野で国際的に活躍できる人材となることを目指します。特に
の3つの能力を高め,バイオ技術の現場で有用な人材や国内外の研究をリードできる人材を育成します。

DNA二重らせんモデルから半世紀,21世紀に入ってヒトゲノムの全塩基配列情報が解読されました。この半世紀間の膨大な研究によって,生命の設計図としてのDNAが生命活動をどのようにつかさどっているか,次々に解明されてきました。しかし,一方で,DNAの塩基配列情報を読み取っただけでは生命のしくみを理解するにはほど遠いということもわかってきました。実際に生体内で化学反応を触媒したり情報を伝えたりして働いているのは,DNA分子にコード化されたタンパク質分子です。DNAの塩基配列を調べることで,どのようなアミノ酸配列を持ったタンパク質が存在するかはある程度わかりますが,個々のタンパク質がどのように働くかは,ほとんどわからないのです。生物のゲノムを1冊の本に例えれば,タンパク質のアミノ酸配列は,本の中の単語のつづりに相当します。つづりだけでは,その単語の意味はわかりませんし,ましてや,全体の文脈の中でのその単語の位置づけや意味を理解するのには程遠いのです。現在,アミノ酸配列をタンパク質の機能に対応させる辞書は存在しません。タンパク質の研究は難しいので,後回しにされてきたのです。
生命科学工学コースでは,タンパク質についてだけではなく,より広い生物学についても学びます。実際,現状ではタンパク質のような物質のレベルで考えることのできない生命現象もたくさんありますし,タンパク質だけが生命機能を担う物質だというわけでもありません。核酸や糖,脂質,金属イオンなど,様々な物質もタンパク質と一緒に働いているのです。それらの物質がどのように働いて生命を構成しているか理解するためには,物理学,化学,数学,情報科学などの知識も必要です。
生命の仕組みを詳しく理解することで,生命がこれまでたどってきた悠久の過去を理解し,これからたどるであろう未来の道のりや,宇宙のどこかにいるかもしれない生命体に思いを馳せることもできるでしょう。存在とは何か,生命とは何か,人間とは何かといった,人類が文明を起こしてからずっと問い続けてきた疑問に対する答えに近づけるかもしれないのです。
生命科学工学コースは,無細胞生命科学工学研究センター,工学部,理学部,農学部の教員の連携により,生命の仕組みを様々な角度から理解し,それを様々な基礎・応用分野に適用できる人材を養成します。

生命現象を原子,分子のレベルで理論的かつ合理的に理解できるように,数学,物理学,化学における基本的概念と基礎知識を修得し,理学部および工学部の生化学,生命化学,分子生物学,生物工学に関する専門科目を履修します。また,研究センターにおいて,セミナー等に参加して生命化学における先端研究になじみ,遺伝子組換え,タンパク質合成,機器分析などの基礎的技術を体得します。
これにより,生体分子の特徴を学び,広い視野で生命現象を理解し,さらに,創造力と最新技術を駆使して研究開発に取り組む能力を養います。

愛媛大学の無細胞タンパク質合成技術を用いると,遺伝子情報さえあれば,それが指定するタンパク質を自由自在に合成することができます。既に技術は確立しているので,この技術を応用して新しい生命科学分野を開拓することに取り組んでいます。
細胞内外のタンパク質が,どのようなネットワークを組んで,外の変化に対応しているのか,その全体像がわかれば,それをコンピューター上に再現できるはずです。実は,がんや病原体による様々な病気が,このネットワークの異常と密接に関連しています。しかし,全体像は,情報が揃わなければ解明できません。現在の状況は,遺伝子情報は揃ったけれども,それがコードするタンパク質が何をしているか,何を意味しているかが解明されていない状況です。無細胞技術は,ネットワークの全体像の解明のための必須技術として注目されています。
従来の生命科学では,細胞内外の分子のはたらき方を解析することに重点がありました。しかし,現在に至る生命科学はもともと,生命も分子の集まりでありそれらが物理や化学の原理に則って振舞うことで生命現象がおきている,という考えから始まっています。生命の部品であるタンパク質を自由自在に得る無細胞技術を基盤として,分子を集めて様々な分子システム(生命がもともと持っているものも,持っていないものも)を構築する研究が動き出しています。
マラリア原虫マラリアは熱帯,亜熱帯地域に広く分布する重要な感染症であり,年間約5億人が罹患し,熱帯熱マラリアによる死亡者は150万人から270万人にも及ぶと推定されています。最近,新しいワクチンの候補となるマラリア原虫のタンパク質を見つけるために,マラリアゲノム計画が進められ,2002年に熱帯熱マラリア原虫のゲノム情報が公開されました。それによれば,約5400個の遺伝子があると予想されており,この中には,新しいマラリアワクチン候補となる抗原が見つかる可能性があります。しかし,これまでの方法ではマラリア原虫の遺伝子から組換えタンパク質を合成することは非常に困難で,ワクチン研究の大きな障害となっていました。
吸血中のマラリア媒介蚊そこで私たちは,愛媛大学の遠藤研究室が開発したコムギ胚芽無細胞タンパク質合成法を用いて,熱帯熱マラリア原虫のゲノムワイドに組換えタンパク質を発現してみたところ,コムギ胚芽無細胞合成法がマラリア原虫のタンパク質合成に適していることが判明しました。現在,新しいマラリアワクチン候補タンパク質を見つけるために,ゲノムワイドに組換えタンパク質の合成を開始し,あわせてそれらの中からワクチン候補タンパク質を探す研究を行っています。

この分野では,産業利用を目指して植物や微生物由来の幾つかの酵素を対象に代謝工学研究を進めています。さらに,遺伝子組換え技術を利用して,実際に進化させた酵素タンパク質遺伝子を微生物や植物細胞に導入して生体内での機能も調べています。最近では,イネの酵素タンパク質を試験管内で機能改良することにより,必須アミノ酸トリプトファンの含有量を数十倍にも向上させることに成功しています。
光合成能向上を目指した葉緑体タンパク質の機能解明も重要なテーマの一つです。光合成微生物の共生を起源とする植物葉緑体は,光合成のみならず,脂質,アミノ酸,ビタミンなど多くの有用物質の生産工場として重要な生物機能を担っています。当研究部門では,遺伝子発現を制御するタンパク質の機能解析を中心に,他の研究機関と共同で基礎研究を進めています。

植物は光合成によって,太陽の光エネルギーを生命が利用可能なエネルギーに変換します。より安全でクリーンなエネルギーを得て,石油資源の枯渇や二酸化炭素濃度の上昇などに対処するために,植物の能力を有効利用することが望まれます。
光合成器官は非常に複雑なタンパク質複合体であるため,外部環境の変動は光合成の能力を大きく左右し,ひいては植物全体の育成にも影響します。しかし植物は環境の変化に応答して,光合成などの働きを安定化させたり調節したりしているため,植物の有効利用にはこのような環境への応答機構の解明が鍵となります。
私たちは植物およびラン藻(植物の葉緑体の起源と考えられている微生物)を用いて,環境ストレスへの応答,特に光合成の機能の安定化と再活性化の機構を解明するため,関係する遺伝子やタンパク質の働きや調節機能の研究を行っています。またこの環境応答の仕組みを利用して,遺伝子組換えによって高温や塩分に強い植物を作り出すことに挑戦しています。

食糧の確保は人類にとって重要な課題であり,農学部では自動化した温室の中で甘くて(糖度6以上)おいしいトマトを10アール当たり50トン以上作る技術の開発に取り組んでいます。
果実を大きく育てて,甘くすることは農業的にはとても重要であるにもかかわらず,甘くて大きな果実を大量に作ることは困難であり,どのようにすれば大きくて甘い果実ができるのかは解明されていません。私たちは,プレッシャープローブを用いての細胞水分状態計測による生長に伴う水ポテンシャル場の解析,細胞内物質の分子分析を行うために,蛍光寿命分光分析装置およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計を用いた分子計測の方法を開発しており,できるだけ非破壊に近い状態で植物体の分子計測を行うことを目指し,植物生理的な情報を利用することで効率の良い環境制御を行い,環境制御温室で50t/10a,糖度6以上の甘いトマトの大量生産技術を担う基礎的な計測技術の開発を行っています。植物の生理情報を制御情報として利用し,栽培制御することをスピーキング・プラント・アプローチといい,次世代の植物工場の制御技術として注目を集めています。
植物による重金属吸収と環境浄化高等植物から菌類にいたる様々な細胞の働き(生理機能)を生理化学的および分子遺伝学的手法で研究しています。特に種々環境ストレス下における植物個体や培養細胞の順応/適応機構とさらにシグナル応答機構について基盤研究を行っています。具体的には,高温や低温,乾燥,飢餓ストレス,強光,過重力,重金属イオンなどの様々な刺激を植物などの細胞に与えて遺伝子やタンパク質,植物ホルモンのはたらきを調べています。

遠藤 弥重太

坪井 敬文

戸澤 譲

林 秀則

高井 和幸

澤崎 達也

杉浦 美羽

竹尾 暁

井上 雅裕

真鍋 敬

堀 弘幸

井原 栄治

野並 浩

柿沼 喜己

愛媛大学で開発されたコムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成システムは,タンパク質の研究を飛躍的に容易にしました。愛媛大学では,無細胞生命科学工学研究センターを中心に,ベンチャー企業などと連携して全自動タンパク質合成装置を開発するなど,無細胞タンパク質合成法を世界中に普及させる努力をしてきました。その結果,現在では,国内はもとより欧米やアジアの大学・企業との間に広いネットワークを張り巡らせ,タンパク質に関係する様々な研究を行っています。

タンパク質の研究は,単に生命の仕組みを理解することだけでなく,さまざまな分野に広がってゆく可能性を秘めています。ほとんどの病気には何らかのタンパク質が関与しています。どのように関与しているかがわかれば,医薬品の開発にもつながるでしょう。植物の環境ストレス応答にもタンパク質が関係しています。メカニズムがわかれば,食糧やエネルギー資源の増産につながるかもしれません。くもの糸もタンパク質ですが,これを軽くて丈夫な材料と見ることもできるでしょう。生体内の化学反応は,タンパク質が触媒として働くことによって起こります。タンパク質を理解し,改変することで,様々な物質を大量生産することや,環境汚染物質の除去といった用途にも使えるかもしれません。
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