愛媛大学無細胞生命科学工学研究センター HOME

沿革と展望


 生命活動のすべては、タンパク質の働きによって成り立っていて、ヒトの知性や感情にいたるまでタンパク質が中心的な役割を担っています。タンパク質は、20種類のアミノ酸が遺伝子情報に従って数珠状に繋がった精緻な生体高分子で、細胞で合成されます。タンパク質を機械に例えると、歯車や半導体などに対応する部品であり、ヒトは数十万種類のタンパク質からできています。ヒトゲノムプロジェクトの完了から、ゲノムの構造解析が加速度的に進展し、現在では800種超える生物のDNA情報が発表されています。しかし、ゲノム情報を生命科学研究や産業分野に活用するためには、先ず、遺伝子情報をタンパク質へと翻訳生産し、その機能や構造を解明することが必須です。トライアンドエラーで進化してきたので、遺伝子情報から判読できることはタンパク質のアミノ酸配列だけであって、外国語で言えば単語のスペルが判明したに過ぎず、それらの意味(機能)は分からないのです。従って、ゲノム情報を生命科学や産業分野で活用するためには、タンパク質の機能や構造を解析することが必須で、このためにはタンパク質を生産・調製することが必要となります。しかし、今日においてもタンパク質を自由自在に生産・調製することは容易でなく、生命科学研究のボトルネックとなっています。従来からの生細胞を基盤とする組み替え生産方法では、宿主の生理機能を攪乱する分子は原理的に生産ができず、また、有機合成法は原理的に生産収量が低くタンパク質の生産方法としては大きな限界があるからです。この問題を打破し得る手法として、生物が備えた能力と化学技術を融合する無細胞タンパク質生産法の開発が期待されてきました。無細胞タンバク質合成法とは、生体の遺伝子情報発現系を試験管内に取り揃えて遺伝子からタンパク質を鋳型合成する手法で、生命科学の黎明期に翻訳反応研究用のトレーサー実験系として利用されてきましたが、翻訳反応が数十分と短く不安定で合成収量が極端に低いことから、タンパク質の調製手段としては利用できませんでした。

 私たちは、一連の独創的な研究からコムギ胚芽を材料として翻訳反応の不安定性問題を解決し、続いて新規開発した要素技術と組み合わせて、高品質タンパク質の並列生産と大量生産に優れた性能を持つ汎用的な世界標準のタンパク質生産法を確立しました。さらに、本法の特性を利用して既存の分析技術と組み合わせたタンパク質相互間作用の網羅的・高感度検出システムを構築し、遺伝子情報を活用するタンパク質ライブラリーの作製、機能・構造解析、ネットワーク解析などの基礎研究や、マラリアやHIVなどの感染症、ガンや自己免疫疾患などの難治疾患、動脈硬化症などの生活習慣病の研究に用いられるようになりました。

 愛媛大学無細胞生命科学工学研究センターは、平成15年4月に無細胞タンパク質生産技術を基盤として新しく無細胞生命科学工学分野の創成を目指して設立されました。本センターは、基礎技術部門1と応用部門3から構成され、1)タンパク質ライブラリーやマイクロアレイ技術開発、2)感染症、難治疾患や生活習慣病の診断・治療に向けた基礎研究、3)植物などを利用する、物質生産技術の開発、4)無細胞タンパク質合成技術を活用する「セントラルドグマ」教育教材の開発、などを進めています。また、愛媛大学プロテオ医学研究センター、国内外の大学や自治体および企業の研究所とも連携して、世界をリードする独創的な研究を展開しております。

                    
 センター長 坪井 敬文


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