大地震発生の評価につながる基礎研究
愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センターの大内智博准教授、入舩徹男教授、高輝度光科学研究センターの肥後祐司主幹研究員、理化学研究所の矢橋牧名グループディレクターなどからなる研究チームは、大型放射光施設SPring-8の強力な次世代X線と高温高圧発生装置を組み合わせて用いることで、高温高圧環境にてサブ秒オーダーで進行する岩石の破壊現象の観察に成功しました。実験において、岩石の破壊(ミニ地震の発生)は、ある程度の高い応力が岩石に加わっている状態に限られることを明らかにしました。この結果より、地球内部にて地震が頻発する状況は、「地震発生場に生じている応力が高い状況」にあると解釈することができます。今後、種々の実験環境下においても検証が進めば、大地震発生の評価への応用も可能になるものと期待されます。
研究成果のポイント
・実験室におけるミニ地震の発生は、岩石試料が受ける力が過去に受けた最大値を上回った場合に限られること(カイザー効果)が知られていた。
・しかし、技術的な問題により、カイザー効果は常温常圧でしか確認されておらず、数10kmの深さで発生する実際の地震の高温・高圧下では確認されていない。
・本研究では、深さ60~90kmの地震発生場の温度圧力環境を実験室で再現し、カンラン石の変形実験とミニ地震の測定を行った。
・サブ秒オーダー(1秒以下)の高い時間分解能での観察を可能にするSPring-8の次世代X線が、実験成功の鍵となった。
・この結果、地震発生場の温度圧力環境下にてカイザー効果はおおむね成立したが、カイザー効果に反する結果も得られた。
・地震発生場の温度圧力環境下では、岩石がある一定以上の強い力を受けている場合にのみ地震が発生するものと予想される。
論文情報
掲載誌:Geophysical Research Letters
題名:A Stress Memory Effect in Olivine at Upper Mantle Pressures and Temperatures(地球の上部マントルの温度圧力条件下における応力記憶効果)
著者:Tomohiro Ohuchi, Yuji Higo, Noriyoshi Tsujino, Sho Kakizawa, Yusuke Seto, Yoshio Kono, Hirokatsu Yumoto, Takahisa Koyama, Hiroshi Yamazaki, Yasunori Senba, Haruhiko Ohashi, Ichiro Inoue, Hiroyuki Ohsumi, Yujiro Hayashi, Makina Yabashi , and Tetsuo Irifune
DOI:10.1029/2025GL114960
https://doi.org/10.1029/2025GL114960