生物界に存在する左と右の起源の理解につながる成果
愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の井上紗綾子助教、愛媛大学理学部佐藤久子研究員、東邦大学医学部山岸晧彦博士からなる研究チームは、モンスズメバチ後翅(羽)の高分解能走査電子顕微鏡法観察を行いました。
その結果、翅の表面は微小な棘状の毛で覆われ、その毛には螺旋状の溝があることが観察されました。その螺旋の溝は、左翅は右巻き、右翅は左巻きと左右で異なっていることも分かりました。さらに、顕微スキャン型多次元赤外円二色性分光装置を用いた解析で、この左右非対称構造の成因は棘を構成するタンパク質の構造と強く関係していることを示しました。
生物の左右非対称性はその生物が発揮する機能とも関連しており、今回の成果は非対称性の起源をより明確にするものです。
研究成果のポイント
• 人間の左手と右手の関係のように、鏡に映ると同じ形だが、そのままでは重ならない性質をキラリティと呼ぶ。生物の体は左右非対称な形を持つことが知られている。
• 本研究はモンスズメバチの左右後翅の微細構造を観察し、マイクロメートルスケールで左右非対称にあることを発見した。
• 翅微細組織の左右非対称性はタンパク質高次構造により制御されていることが示唆された。
• 高い空間分解能での微細組織観察とタンパク質の局所高次構造検出により、昆虫翅の左右非対称性と分子レベルのキラリティの関係、つまり翅の構造という器官レベルでのマクロな非対称性が分子レベルでのミクロな非対称性に成因を持っていることを明確に示した。
論文情報
掲載誌:Physical Chemistry Chemical Physics (PCCP)
題名:Left-right Asymmetry in the Microstructure of the Hindwings of European Hornet Revealed by Scanning Electron Microscopy and Microscopic Vibrational Circular Dichroism(走査電子顕微鏡法と顕微型振動円二色性分光法により明らかにするモンスズメバチ後翅微細構造の左右非対称性)
著者:Sayako Inoué, Hisako Sato and Akihiko Yamagishi(井上紗綾子、佐藤久子、山岸晧彦)
DOI:10.1039/D5CP01013F
URL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2025/CP/D5CP01013F