気候変動の影響と対応策をデータで読み解く
※掲載内容は執筆当時のものです。
農家の意思決定と適応策のメカニズムに着目したデータ駆動型研究
研究の概要
最近は、誰もが「暑くなってきた」と実感するほど、気候変動の影響が身近になっています。私の研究では、こうした気候変動の影響を最も強く受ける産業のひとつである農業を対象に、データを使った分析を行っています。直近では、主に次の2つのテーマについて研究しています。
【気候変動が農作物に与える影響の分析】
気候変動が今後も続けば、農業生産には大きな影響が出ると考えられています。私の研究では、どのような気象条件が収量や品質に影響を与えるのかを、多様なデータを用いて明らかにします。また、気候変動の影響を予測するときには、「農業に携わる人々がどのように行動を変えていくか」を想定することがとても重要です。そのため、図に示すようなさまざまな適応策を仮定しながら、気候変動による影響を推計しています。
【「適応」を阻む要因の分析】
気候変動に対応しようとしても、資金・労力・技術などの制約によって行動に移せない場合が多くあります。「適応したいのにできないのはなぜか?」という問いに答えることも重要な研究テーマです。例えば、身近な作物である「米」では、人気の高い「コシヒカリ」や「ヒノヒカリ」は高温に弱い性質があり、気温がさらに上がると、品質低下のリスクが高まります。そのため、将来的には高温に強い品種への切り替えが重要になりますが、ブランドイメージなどの理由で簡単には移行できないというケースもあります。こうした問題に対して、生産者と消費者の双方が納得できる“win-win”の関係をどう築くかという視点からも研究を進めています。
研究の特色
研究では、膨大なデータを集めて分析します。例えば、気温・降水量などの気象データ、衛星が撮影した農地の画像データ、政府が実施した統計データなど、多様なデータを活用することで、気象の変化と農業生産との関係を詳細に明らかにすることができます。また、研究では単に複雑な計算を行うだけではなく、現実に即した“リアリティのあるモデル”を作ることを大切にしています。気候変動に直面したとき、農家さんがどのように考え、どんな選択をするのか考えながら、分析を進めています。この際に、研究室でデータをいじっているだけではわからないことも多いため、実際に農村に足を運び、農家さんやJAの担当者の方のお話を伺うことも大切にしています。現場とデータをつなげることで、机上では見えない事実や新しい発見が得られる点が、研究の面白さの一つだと思っています。
研究の魅力
【データ分析の魅力】
研究では、さまざまなデータを調べながら、「このデータを分析すれば、今まで誰も気づいていないことがわかるのでは?」と考えることがよくあります。もちろん、アイデアがうまくいかなかったり、時間が足りず形にならないことも少なくありません。それでも試行錯誤を重ねるなかで、新しい視点に気づいたり、より良い分析方法を発見したりすることができます。データ分析は地道な作業が多く、決して「楽しい作業」というわけではありません。しかし、最初はぼんやりしていた考えが、文献を読み、他の研究者と話し合ううちに少しずつ形になっていく過程には大きな達成感があります。自分では気づかなかった点を、多くの人との連携の中で補いながら研究を進められることも、大きな魅力だと感じています。
【フィールドワークの魅力】
私自身はほかの先生ほどフィールドワークに頻繁に行けているわけではありませんが、できる限り現場に足を運ぶようにしています。自分で人脈を開拓したり、先生方に紹介していただいたりしながら、農家さんやJAの方のお話を伺っています。実際に現場に行くと、最初に立てていた仮説があっさり覆されることもあります。しかし、それもフィールドワークの魅力の一つです。現場の声は、研究の方向性をより良いものに変える大きなヒントになります。社会共創学部はフィールドワークを重視しているため、「現場を大切にしながら学ぶ」環境が整っていると感じています。
今後の展望
気候変動の影響に関する研究はこれまで多く蓄積されていますが、「気候が変化したとき、人間はどのように行動を変えるのか」という点については、まだ十分に明らかになっていません。気候変動はすでに進行しており、人々は今まさに変化しつつある気候に適応しようと、さまざまな行動を取り始めているため、こうした人々の行動に関するデータも少しずつ蓄積されつつあります。今後は、これらのデータを活用しながら、「人々は気候変動にどの程度まで適応できるのか」、「その行動は気候変動の影響をどれだけ軽減しうるのか」といった点を明らかにしていきたいと考えています。





