図工・美術科にかかわる理論研究と木を素材とした立体造形制作

研究の概要

私の研究は「図工・美術科にかかわる理論研究」と「木を素材とした立体造形制作」に大別できます。図工・美術科は作品をつくることのみを目的とした教科であると、多くの人々に誤解されています。しかし、図工・美術科が掲げている教科目標は、表現や鑑賞の活動を通して、児童・生徒の知識や技能、思考力や表現力などを育成することであり、作品をつくることだけを目的としていません。作品をつくることは目標を達成するための手段なのです。このような誤解を少しでも解消していくためにも、私は「図工や美術にかかわる理論研究」の中で、児童・生徒の造形プロセスに着目した教育的意義に関するものや、小刀などの道具の取り扱いに関することなどを研究しています。また、「木を素材とした立体造形制作」に関する研究では、「挽き曲げ」という技法を用いた作品から始まり、近年では「四方十字組手」という伝統技法を多用した作品を発表しています。

研究の特色

私の研究の特色は、自身のつくる経験と図工・美術科にかかわる理論構築の視点が密接につながっている点にあります。私は作品を制作することで、道具の扱い方や木という素材のもつ特性の理解、つくる行為を主とした造形プロセスに関する知見などを身につけてきました。こうした実践経験が図工・美術科の指導方法や授業づくりに活かされており、特に小刀使用に関する研究では、小刀の具体的な指導方法の構築に一役買っています。こうした研究成果を大学の授業にも還元しています。例えば、樹種による性質の違いや、小刀・鋸・クランプ・万力等の道具使用に関する知識、児童・生徒に対する具体的な指導方法の提案などを学生に伝えることで、図工・美術科を指導する教員として必要な資質の向上に貢献しています。さらに、授業で伝えている内容や図工・美術科に関する知見をInstagram(fukuimagram)で公開しており、学生に対して授業内容をいつでも復習できるような機会を提供しています。こうしたSNSの活用は、研究成果を図工・美術科の指導に悩んでいる全国の現場教員へ還元する機会にもなっています。

研究の魅力

私にとっての研究の魅力は「つくる」ことの奥深さにあるといえるでしょう。「つくる」プロセスの中では、想定をしていない様々な問題が生じます。その問題に対して、何をどのような手段で対応していくのか、微細なことも含めて全てのことを自分の意志で決定していかなくてはなりません。そのため、何かをあらわしたりつくったりすることは、自己決定力や問題解決能力などを培う絶好の機会になっているのです。加えて、こうした「つくる」ことの経験が造形的な視点を培い、自分の見方や感じ方や考え方を広げ、自分を取り巻く「世界」の見え方や感じ方に広がりや深みを与えてくれていることも実感しています。これは私の制作の中だけで生じていることではなく、図工・美術科における児童・生徒の活動の中でも、大なり小なり同じような経験を積むことになります。だからこそ、「図工・美術科は「世界」を広げる」と考えているのです。さらにこうした経験が、児童・生徒の活動に対する専門的な助言や児童・生徒一人ひとりにより共感的に寄り添う姿勢を培ってくれました。このように「つくる」ことについての研究が、私自身の成長を促すだけでなく、図工・美術科の指導力向上に寄与している点も、私にとっての研究の魅力と言えるでしょう。

今後の展望

実践経験を基盤とした学びが図工・美術科にとっての大きな強みといえます。これはAIが進化すればするほど重要視されていくと予想しています。今後は、AIが台頭する時代の中で学校教育における身体を伴った学びの可能性について、「偶然性」や「自分で決める力」などをキーワードとして論及していきたいと考えています。

そして、もうひとつ。それは学校教育において児童・生徒から「危険」を遠ざけない取組の実現です。小刀は扱い方によっては大きな怪我につながる危険な道具として認識されがちです。だからといって安全を理由に危険を遠ざけてしまっては、危険に対する経験や思考力・判断力が培われません。これは小刀だけではなく「火」の取り扱いも同様です。小刀だけではなく火の取り扱いや教育的意義についても、趣味の焚き火を活かしてその知見を深めていきたいと考えています。

この研究を志望する方へのメッセージ

美術科教育にかかわる研究や制作活動を主軸とした研究を志しているならば、最初は難しいことを考えずにまずは「面白がる力」を身につけることを推奨します。何事に対しても「面白がる」という姿勢があれば、身の回りにある様々な事象に対して主体的に意識を向けることができます。自ら意識を向けるからこそ、疑問を持ち、つくりたい気持ちが生まれ、それについて探求しようという意欲が生まれるのです。理論研究をするにしても、作品発表をするにしても、楽しいことばかりではありません。時には面倒だと思うこともやらないといけない必要に迫られます。そんなときに「これをやりたい」という意欲がないと長続きしません。「面白がる力」は自分の中にくすぶっている「これやりたい」という意欲を後押しして行動に移しやすくしてくれます。「面白がる力」おすすめです!