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最先端研究紹介 infinity

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2013.06.28
生きるとは、タンパク質を作ること
プロテオサイエンスセンター / 教授 澤崎 達也 / 専門:蛋白質科学

※記載内容は掲載当時のものです。

不思議な分子、タンパク質の謎に挑む

澤崎先生 21世紀になり、ヒトを含め多くの生物種のゲノム配列情報の解析技術が進んだおかげで、どの生物がどんな遺伝子配列をもつのかが分かるようになってきました。しかし残念なことに、遺伝子の配列から分かるのはアミノ酸の並びだけで、遺伝子の本体であるタンパク質の機能まではわかりません。いわば、タンパク質という単語のスペルが判明しただけで、それらの意味(機構や構造)はなお不明なままです。
 遺伝子の機能を知るためには、その情報を1つ1つタンパク質分子に変換し、試験管内で生化学的な機能を調べる必要があるのです。試験管内で遺伝子情報からタンパク質を作る技術、それが私達が開発してきた無細胞タンパク質合成技術です。ヒトや植物は、だいたい2万5千種類ほどのタンパク質を持っています。私達はこの技術を使って、ヒトや植物のタンパク質を何千種類とつくり、がんや感染症などに関わるタンパク質を見つけ出す研究をしています。
 現在、世界で無細胞タンパク質アレイを作ることができる研究室は3つほどしかありません。その3つの研究室は、どこも私達が開発したコムギ無細胞タンパク質合成技術を使っています。タンパク質を作る技術と、無細胞タンパク質アレイでのタンパク質解析技術では、私達が世界のトップランナーです。

研究の特色

 試験管内で自由にタンパク質を作る技術を使って、無細胞タンパク質アレイと呼ぶ、数千種類のタンパク質が1つ1つ並んだ小さな容器を作ります。その容器に、例えば、がん抑制タンパク質を加えると、がん抑制タンパク質と相互作用するタンパク質を見つけ出すことができます。同じように、ウイルスのタンパク質を加えると、ウイルスのタンパク質と相互作用するタンパク質を発見できます。この様にして、がんやウイルス感染症に関係するタンパク質を日々見つけ出しています。

図3:マイクロアレイ実験の結果から推測されたリンホシスチス細胞の形成機構

図3:マイクロアレイ実験の結果から推測されたリンホシスチス細胞の形成機構

研究の魅力

写真2:研究室の様子(エジプトからの留学生と教員のディスカッション)

写真2:研究室の様子(エジプトからの留学生と教員のディスカッション)

科学者は、“好奇心”という亡霊に取り憑かれた人達かも知れません。時として、何かを知りたい気持ちは、何かを食べたい気持ちと同じくらい強い欲望となって人を支配します。研究職はその好奇心を満たしてくれる、数少ない職業かも知れません。また、同じ研究テーマを学生に渡しても、3年後の結果は異なっていることがほとんどです。それくらい研究というのは、個人の考え方や使える技術などが色濃く反映されます。つまり、研究をすればするほど、自分が何者なのかを見つめることになります。そして、1つの科学技術の発見は、より大きな科学技術を生み出します。人類が紡いできた、そして後生に紡いでいく英知、それが研究だと思います。

 

研究の展望 

写真3:世界初の自動タンパク質合成装置(1度に384種類のタンパク質を合成することができる)

写真3:世界初の自動タンパク質合成装置(1度に384種類のタンパク質を合成することができる)

タンパク質は摩訶不思議な分子です。アルファベットは26文字で、私達の感情や行動のほぼ全てを表現できますが、タンパク質もたった20種類のアミノ酸の並び方の違いで、ほとんど無限のバリエーションを作れます。美味しいと思ったり、光を感じたり、素敵な色を合成したり、筋肉だって作れます。タンパク質は魔法の様に何でもできます。
 でも私達は、なぜタンパク質がこのような機能をもつのか、その分子機構について、ほとんど理解できていません。タンパク質の機能とは何か?ここに挑戦して、その研究の一部が、ヒトの疾患を理解する助けになればと思っています。

 

 

 

この研究を志望する方へ

 人がもつ好奇心が、人に道具を作らせ、技術を生み出してきました。つまり、科学技術の発展は人が持つ業なのかもしれません。バイオテクノロジーは、物理や化学より大きく出遅れた科学だといえます。タンパク質という、私達を司っている分子を理解し、自由に改変できる科学技術ができれば、本当のバイオテクノロジーの幕開けになると思います。自分の中の好奇心に耳を傾け、巨人の肩の上に立ってみませんか。そんな若者を待っています。