疾患モデルの解析と診断・治療に役立つ顕微鏡づくり

大嶋先生「顕微鏡」と聞くと、みなさんはまず理科の実験で使う顕微鏡を思い浮かべるかと思います。顕微鏡は、動植物の細胞や微生物の観察など、医学・生物学研究のための道具としてだけではなく、医療現場における病理診断、そのほか工業用途などさまざまな場面で人の目に見えない小さな構造物の検査・分析に用いられています。私たちの研究グループでは、最先端の顕微鏡を用いて、これまで発見が難しかった病気の診断や、治療が困難な病気の原因究明、さらには新しい薬や治療法の開発やその効果を実証するための研究を行っています。また、顕微鏡技術の高性能化が医療の発展に役立つと考え、新しい光学デバイスや測定原理を取り入れた顕微鏡技術の開発とさまざまな疾患モデルの解析へ応用する研究にも取り組んでいます。

研究の特色

 人の眼でものを見るためには「光」が必要です。カメラで写真を撮影するときにも光がなければ、物体は見えませんし、写真には何も写りません。光学顕微鏡も同様に、物体が光を吸収したり、散乱したりする性質を利用して、画像を構築しています。私たちの研究の特色は、生体にやさしい「光」と生体組織や細胞を構成する「分子」の相互作用に着目した光メージング技術の開発を行っているという点です。たとえば、顕微鏡に用いる光源にレーザーを用いることによって、微細な構造をより細かく、そしてより鮮明に観察することができます。レーザーと聞くと、非常に強い光というイメージがあるかもしれませんが、照射の方法や光としての性質をうまく制御することによって、生体組織を壊したり、傷つけたりすることなく、細胞や組織中の分子の動きやその分布、そして通常表面から見えない組織内部まで観察することができるようになります。近年、このようなレーザー顕微鏡技術の発展は目覚しく、昨年のノーベル化学賞は、光の回折限界を超えた観察を可能にした「超解像顕微鏡」の開発に貢献した研究者に授与されました。レーザー顕微鏡技術は、未知の生命現象を解き明かすバイオイメージング研究を加速させる強力なツールとしてますます期待が高まっています。

 

研究の魅力

 レーザーの開発は、物理や工学の研究分野です。また、光と分子の相互作用の研究は、化学の学問領域です。生命現象の解明は、生物学分野そして、病気の治療や診断への応用は医学研究の領域です。私たちが行っている研究は、さまざまな専門領域にまたがっており、それぞれ分野や興味の対象が異なる研究者や技術者と力を合わせて、「医療の発展に貢献する顕微鏡づくり」という大きな目標に向かって研究を進めています。専門分野が異なる人たちと一緒に研究するためには、お互いの背景を理解しなければ思うように意思の疎通ができなかったり、より多くの知識が求められたりと、苦労もありますが、異分野間の人たちとの交流を通じて、いままでと違った視点や考え方に触れる事ができ、とても刺激的です。

研究の展望

現在は、新しいレーザー光源や顕微鏡システムを製作して、細胞や組織の標本、小型のモデル動物を用いた計測を中心に行っていますが、将来的には性能評価や安全性の確認をしっかりと行い、人に応用できる段階にまで技術を発展させていきたいと考えています。また、医療現場で使える機器の開発と平行して、高性能化した顕微鏡を用いて診断や治療が困難な病気の原因解明や治療法の確立を目指した研究を進めていきたいと考えています。

この研究活動は,教員の実績ハイライトにも掲載されています。

 教員の実績ハイライトとは、教員の「教育活動」「研究活動」「社会的貢献」「管理・運営」ごとに、特色ある成果や業績を精選・抽出したもので、学内のみならず学外にも広く紹介することとしています。