計測の技術で農産物の流通を支援する
※掲載内容は執筆当時のものです。
研究の概要
私は社会共創学部産業イノベーション学科ものづくりコースにて、県内の製造業・IT業界の企業との連携に取り組んでいます。また、研究成果を一次産業、特に農業振興に役立てようとしています。
研究の特色
農産物・加工品は、今後輸出の拡大が見込まれることから、品質の揃った生産品を選別する技術が必要とされています。愛媛県はカンキツ出荷額、品種数で全国トップクラスであり、多様な選別技術が必要です。カンキツの出荷時、通常は腐敗果が除かれますが、計測エラーが出ることもありました。この課題に対して、判定を2段階で行うなど異なる方法を重ねることでこの課題を解決できる2能性が見えてきました。
国産品が競争力を維持するには、機械の利用、品質の追求、流通の最適化が欠かせません。農産物の腐敗を見極めるセンサの研究においては、農学のみならず「ものづくり」の視点が必要です。学内共同施設として工作機械設備や大型分析機器設備も活用しています。
研究の魅力
農産物を対象にしたセンサ関連のメーカーの方と会うと、設計では想定していない結果が得られたという話を聞くことがあります。例えば、果実の傷を見つけるセンサにもかかわらず、傷のない果実で強い信号が出てしまうというのです。
研究の立場からは、どうやって傷の有無を判定しているのかを教えてもらい、なるべく計測方法を変えないで判定精度を向上させるアプローチを提案しています。場合によっては、その計測方法では課題を解決できずに、計測方法を変えて開発したほうが合理的かもしれません。 カンキツ、ピーマン、トマトの傷は、凸凹の変化、果汁の付着、防御反応、老化などを引き起こしますから、それらのどれかを測定すればよいのです。様々な方法を試行錯誤するし、試行錯誤できる研究領域であると思います。
今後の展望
これからの最先端の計測の研究では、推定値が科学的な理論でサポートされていることが求められています。特に、非破壊計測の分野では偽陰性や偽陽性が必ず起こります。研究成果を必要とする相手に応じて、結果の確からしさを示す姿勢が求められます。このカンキツの糖度の推定値は、13度プラスマイナス1度であり、その範囲に収まる確率は60%といった具合です。
また、日本の農業の高齢化率を考えると、今後、計測の技術は、農業者の支援、特に良品率の向上につながらなくてはなりません。例えば、ピーマンでは選果センサで得られる発光の強さから、果実の硬さと栽培時の日射強度との関係を知ることができるようです。このような選果情報を活用することで、これまでデータになっていなかった栽培情報と品質の関係が今後明らかになると考えられます。農産物に含まれる栄養素や食べたときのシャキシャキ感、安全性を脅かす化学物質など、あらゆる品質は計測の対象です。日本が誇る計測技術は、製造業で多用されていますが、それ以外にも国産農産物が世界で評価されるのに貢献すると考えています。
この研究を志望する方へのメッセージ
ご紹介した研究は、農業の諸課題を工学的な手段で解決することを目指す学問領域です。自身が高校生の時を思い出すと、高等学校で学ぶ多くの分野が現在役に立っていると感じます。開発や研究のわくわく感は、好きな理科の勉強に通じるところがあります。どんな研究に、どのくらいの期間取り組むかを決める場面では、社会や現代社会の知識が活かされると感じます。計算が必要になれば、数学の出番です。私は高校時代、国語が苦手でしたが、研究者にとって文章執筆は必須のようです。また古典文学は私の研究では関係ありませんが、苦手科目と向き合って克服しようとする経験は、それを越えて、苦手への対処につながります。
自分の好きなことはさらに学び、苦手なことにも少し取り組んでみる。かつて、高校生であった自分に言いたい言葉です。