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「いつか使われる日のために…」大学院農学研究科の渡辺誠也教授が細菌のゲノムに眠る糖代謝の新経路を発見【4月15日(月)】

 渡辺誠也 愛媛大学大学院農学研究科教授(沿岸環境科学研究センター教授 兼任)、福森文康 東洋大学教授らの研究グループは、自然界にはほとんど存在しない糖(希少糖)とその酸化物である糖酸を代謝する細菌の新経路を発見しました。

 渡辺教授の研究グループでは、微生物のゲノム上にある遺伝子の集まり(クラスター)に注目し、役割が不明な遺伝子(酵素)の機能を明らかにしようとしています。機能が分かるということは、化学反応に利用できる化合物(基質)が分かるということです。グループでは最近、土壌細菌であるHerbaspirillum huttienseの持つ機能未知遺伝子であるC785_RS13685が、糖酸の一種であるD-アラボン酸の脱水酵素として機能することを明らかにしました(Watanabe et al., Scientific Reports 9, 155, 2019)。別の細菌のこれに相当する遺伝子はD-アラビノースで強力に発現誘導され、リン酸化を伴わないD-アラビノース代謝経路の中でD-アラボン酸脱水酵素として働いています(図の緑)。

 H. huttienseもD-アラビノースで生育できますが、C785_RS13685遺伝子はそれほど転写誘導がかかりません。今回の解析では、まず(D-アラボン酸と構造が一部似ている)L-キシロン酸、D-アルトロン酸、D-イドン酸といった別の糖酸が基質になることを見出しました。これらの化合物に対する活性の強さはD-アラボン酸に比べてはるかに貧弱でしたが、中でもL-キシロン酸は遺伝子を数百倍も発現誘導し細菌は顕著に生育しました(図の赤)。一方、植物病原菌であるAcidovorax avenaeのC785_RS13685に相当する遺伝子はL-ガラクトースで強力に発現誘導され、新たに見出した新規分解経路の中でD-アルトロン酸脱水酵素として機能していました(図のオレンジ)。別の研究では、土壌から単離されたL-グルコースで生育できる細菌の中でC785_RS13685に相当する遺伝子はD-イドン酸脱水酵素として機能していることが分かっています(図の青)。

 本研究で重要な点は、酵素的に最適な基質(今回の場合はD-アラボン酸)ではなく付随する弱い活性のほうが生理的には重要な場合もあるということです。L-キシロン酸やL-グルコースは自然界には存在しませんが、「いつか使われる日のために」一見無駄のような分解経路を備えておくことは長期的に考えれば進化に有利なのかもしれません。実際、希少糖であるL-ガラクトースは自然界には寒天や植物細胞壁の成分として含まれていますが、たいていの細菌は分解できません。植物に感染するA. avenaeでは、こうした備えがあったからこそその利用が可能になったと思われます。

 本研究成果は、2019年4月15日に国際学術誌「Molecular Microbiology」にオンライン掲載されました。なお、本研究の一部は、JSPS科学研究費補助金基盤研究(C)(16K07297;研究代表者 渡辺誠也)、農学研究科研究グループARG(生命機能科学応用開発グループ;グループ長 渡辺誠也)の支援を受けて行われました。

【論文情報】

掲載誌:Molecular Microbiology

DOI:https://doi.org/10.1111/mmi.14259

題名:Substrate and metabolic promiscuities of D-altronate dehydratase family proteins     involved in non-phosphorylative D-arabinose, sugar acid, L-galactose, and L-fucose     pathways from bacteria.

著者:Seiya Watanabe1,2,3, Fumiyasu Fukumori4, Yasuo Watanabe1,2
     1 Department of Bioscience, Graduate School of Agriculture, Ehime University
     2 Faculty of Agriculture, Ehime University
     3 Center for Marine Environmental Studies (CMES), Ehime University
     4 Faculty of Food and Nutritional Sciences, Toyo University