プレスリリース

クェーサーの光、ダークマターの影

130億光年先のブラックホールを包み込むダークマターの質量を初めて測定

発表のポイント

  • 約130億年前の宇宙において活動的なブラックホールを包みこむダークマターの典型的な重さを初めて測定した。
  • ブラックホールが活動的となるダークマターの質量は宇宙の歴史の大半でほとんど変化しないことを初めて明らかにした。
  • 今後、次世代の望遠鏡・観測装置による広大な領域の観測が進行することで、より過去の測定が可能となり銀河とブラックホールの共進化の理解が加速すると期待される。

発表概要

宇宙にはダークマター(注1)と呼ばれる未知の物質が大量に存在していると考えられています。ダークマターは光を発しないため直接観測することはできませんが、その塊であるダークマターハロー(注2)が銀河の質量の大半を担っており、銀河の成長に大きな影響を与えると考えられています。一方、超大質量ブラックホール(注3)はほぼすべての銀河の中心に存在し、その活動性が高まるとクェーサー(注4)として観測されます。この11~12桁も大きさの異なるブラックホールとダークマターハローが、特に初期宇宙において、どのような関係を持っているのかは謎のままでした。

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の有田淳也大学院生、柏川伸成教授、愛媛大学の松岡良樹准教授らの研究チームは約130億年前の初期宇宙におけるクェーサーの分布を調べ、そのダークマターハローの質量を初めて測定することに成功しました。その結果、130億年前の時代でもそれ以降の時代と同程度の質量のダークマターハローにクェーサーが発現している、言い換えるとブラックホールが活動性を高めるために必要なダークマターハローの質量は一定であることが分かり、ブラックホールが活動的になる普遍的なメカニズムが存在する可能性が示唆されました。

今後、現在計画中の大規模観測が進むとより過去のクェーサーについてダークマターハローの質量を測定することが可能になると期待され、宇宙の歴史におけるブラックホールの成長や銀河との共進化(注5)についての理解が深まると考えられます。

関連のプレスリリース

1.「超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」(2019/03/14)(東京大学大学院理学系研究科・理学部ウェブサイト)
2.「世界初!129億年前の初期宇宙で巨大ブラックホールの住む親銀河を検出」(2023/06/29)(東京大学大学院理学系研究科・理学部ウェブサイト)

発表者

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
有田 淳也(修士課程)
柏川 伸成(教授)

愛媛大学宇宙進化研究センター
松岡 良樹(准教授)

論文情報

雑誌:The Astrophysical Journal
題名:Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). XVIII. The Dark Matter Halo Mass of Quasars at z~6
著者:Junya Arita, Nobunari Kashikawa, Yoshiki Matsuoka, Wanqiu He, Kei Ito, Yongming Liang, Rikako Ishimoto, Takehiro Yoshioka, Yoshihiro Takeda, Kazushi Iwasawa, Masafusa Onoue, Yoshiki Toba, and Masatoshi Imanishi

研究助成

本研究は、科学研究費補助金(課題番号:21H04490、21H04494、JP17H04830)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ダークマター
光を放たず、重力のみ作用すると考えられている正体不明の物質。暗黒物質ともよばれます。ダークマターの存在は銀河内の星やガスの運動や重力レンズと呼ばれる現象から示唆されています。私たちが知っている普通の物質(陽子や中性子など、またそれらで構成された物質)の5~6倍ものダークマターがこの宇宙に存在すると考えられています。

(注2)ダークマターハロー
ダークマターが自身の重力で集まった塊。この塊の中で普通の物質も集積され、銀河が誕生します。ほとんどすべての銀河はダークマターハローに包まれています。

(注3)超大質量ブラックホール
ブラックホールは光も脱出することができないほど強い重力を持つ天体です。ほぼすべての銀河中心には数百万太陽質量以上の質量を持つ巨大なブラックホールが存在すると考えられており、超大質量ブラックホールと呼ばれています。ここで、ブラックホールの活動性が高まるとは、周囲の物質を大量に飲み込んでクェーサーとして明るく輝いていることを指しています。

(注4)クェーサー
超大質量ブラックホールの活動性が高まり、周囲の物質が大量に飲み込まれる過程では膨大なエネルギーが解放されます。そのエネルギーが様々な波長の光で放射されることで明るく輝く天体がクェーサーと呼ばれます。

(注5)共進化
銀河と超大質量ブラックホールでは大きさが10桁も異なるのですが、両者の質量には強い比例関係があることが知られています。このことは銀河とブラックホールが互いに影響を及ぼしながら「共進化」したことを示唆していますが、なぜこのような関係があるかは謎で、現代天文学における重要な課題の1つとなっています。共進化を理解するうえで重要な物理量の一つがダークマターハローの質量です(「関連のプレスリリース2」参照)。

本件に関する問い合わせ先
研究に関する問い合わせ

東京大学大学院理学系研究科
教授 柏川 伸成(かしかわ のぶなり)
Tel:03-5841-4261
E-mail:n.kashikawa@astron.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院理学系研究科
修士課程 有田 淳也(ありた じゅんや)
Tel:03-5841-4267
E-mail:jarita@astron.u-tokyo.ac.jp
※有田にご連絡の際は、Cc.に必ず柏川のメールアドレスを入れてください。

愛媛大学宇宙進化研究センター
准教授 松岡 良樹(まつおかよしき)
Tel: 089-927-9579
E-mail: yk.matsuoka@cosmos.ehime-u.ac.jp

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