この度、愛媛大学大学院医学系研究科の金川基教授、東京大学大学院医学系研究科の戸田達史教授、神戸大学大学院医学研究科の徳岡秀紀医師らの研究グループは、糖鎖異常型とよばれる筋ジストロフィーモデルマウスの治療に成功しました。
今回の発見は糖鎖異常を発症要因とする疾患の治療法開発にむけて画期的な成果となり、筋ジストロフィーや先天性糖鎖不全症などの希少難治性疾患の治療法開発にむけて大きな貢献が期待できます。
本研究成果に関する論文は、令和4年4月14日(木)付でNature Communications誌に掲載されました。
研究の概要
糖鎖とは核酸・タンパク質に次ぐ第三の生命鎖とよばれ、タンパク質や脂質に結合した形で機能を発揮する生体にとって重要な物質です。その重要さゆえに糖鎖の異常は時に疾患の原因になることもあります。筋ジストロフィーは筋力が進行性に低下していく遺伝性疾患で、有効な治療法が未だに確立されていない難病です。筋ジストロフィーの中には、糖鎖の異常によって発症する病型もあり、本邦の小児期筋ジストロフィーで二番目に多くみられる福山型筋ジストロフィーなどが挙げられます。糖鎖異常が生じる原因は様々ですが、糖鎖の材料となる物質の異常も筋ジストロフィーの原因となることが知られています。
本研究では、糖鎖の生合成に必要な物質のひとつCDP-リビトールの合成酵素ISPD(イソプレノイドドメイン含有タンパク質)の異常によって発症する筋ジストロフィーのモデルとして、ISPDが欠損したマウスを作出し、CDP-リビトールの合成不全と糖鎖異常が発症の原因になることを明らかにしました。次いで、モデルマウスに対するISPD遺伝子治療によって病気の進行を抑制できることを発見しました。更に、細胞内への送達効率を高めたCDP-リビトールを創出し、モデルマウスのプロドラッグ治療に世界で初めて成功しました。糖鎖の生合成経路を治療標的とする薬剤の開発研究例は極めて少なく、今回の発見は糖鎖異常を発症要因とする疾患の治療法開発にむけて画期的な成果となり、筋ジストロフィーや先天性糖鎖不全症などの希少難治性疾患の治療法開発にむけて大きな貢献が期待できます(図1)。
研究のポイント
●筋ジストロフィーの原因となる酵素ISPDを欠損したマウスを作出し、発症にいたるメカニズムを明らかにしました。
●ISPD遺伝子治療によって、筋ジストロフィーの進行を抑制できることを発見しました。
●CDP-リビトールという糖鎖の材料をプロドラッグ化し、モデルマウスの治療に世界で初めて成功しました。
●遺伝子治療やプロドラッグ療法は、筋ジストロフィー治療薬開発にむけた臨床応用につながると期待されます。
プレスリリース資料はこちら(PDFファイル 1,426KB)
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