受験生
在校生・保護者
卒業生
企業・研究者
地域・一般
教職員
基金室
アーカイブ

最先端研究紹介 infinity

Print Facebook Twitter
2019.09.10
持続可能な未来の実現のための社会転換メカニズム
社会共創学部環境デザイン学科 / 教授 佐藤 哲 / 専門:持続可能性科学・トランスディシプリナリー研究・地域環境学

※記載内容は掲載当時のものです。

開発途上国のイノベーターと共に考えるトランスディシプリナリー科学

研究の概要

 現代社会は人類の生存自体を脅かしかねないさまざまな深刻な課題に直面しています。大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴う気候変動、森や海の資源の枯渇、生態系の劣化と生物多様性の減少、そして南北問題と貧困に代表される社会的格差の拡大など、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に網羅された多様な課題の解決に、残されている時間はわずかです。しかし、世界各地でひとつひとつの課題の解決にむけたさまざまな取り組みが行われているにもかかわらず、課題が解決に向かっているという実感はほとんどありません。
 持続可能な未来の実現を妨げている深刻な課題の解決は、一筋縄ではいきません。これらの課題はほかのさまざまな課題と複雑に絡み合っているために、ひとつひとつを取り上げて個別に解決していくことがたいへん難しいのです。人間社会とそれを支えている自然環境は、お互いに深く関連した複雑なシステムをつくっています。これを「社会生態系システム」といいます。SDGsが掲げる深刻な課題を解決し、持続可能な未来を実現していくためには、個別の課題をひとつひとつ解決していくというアプローチでは不十分であり、私たちが生きる社会の仕組みや成り立ち、つまり社会生態系システム全体の、根本的な転換が必要なのです。
 このような問題意識を持って、私たちは最新の持続可能性科学の理論と方法論を用いて、持続可能な未来の実現に向けた社会生態系システムの根本的な転換を促すメカニズムを理解し、具体的な社会転換の動きを創り出していくことを目指しています。そのために、科学者や専門家以外のさまざまな人々と協働して研究を行うトランスディシプリナリー科学と、地域からの実践を積み重ねてグローバルな課題の解決につなげていく地域環境学のアプローチを組み合わせ、人類が直面する深刻な課題を総合的な視点から解決していくための意思決定と具体的な活動を促す総合研究を進めています。

研究の特色

 私たちの研究は、社会生態系システムの複雑さに対応するためのさまざまな学問分野による学際共同研究に加えて、科学者以外の人々と密に協働して研究を行うトランスディシプリナリー(TD)科学のアプローチを採用しています。科学的な知見だけでなく、人々の生活や経験から生まれた知恵、スキル、工夫などを含むありとあらゆる知識・技術を総動員して、社会の転換を促す実践的な研究を行うTD研究が最大の特徴です。これによって、世界各地で地域の人々の中から生まれている革新的な実践を集め、地域社会のイノベーターのみなさんから学び、共に考え、新しい知識・技術を共創していきます。

アジア・アフリカのイノベーターが集うトップイノベーター・ワークショップ(2018年9月・福岡市)

研究の魅力

 大学共同利用機関法人人間文化研究機構・総合地球環境学研究所で、私自身がリーダーとなって2012年から5年間にわたって実施した学際共同研究である「地域環境知プロジェクト」が、私たちの研究の出発点です。このプロジェクトを通じて世界各地のイノベーターとのネットワークを創りあげ、その豊かな発想から学び、私たち自身の研究を大きく進化させてきたことが、今の研究につながっています。2017年からは、科学技術振興機構(JST)の社会技術研究開発センター(RISTEX)の支援を受けて、開発途上国のイノベーターのみなさんと協働した「貧困条件下の自然資源管理のための社会的弱者との協働によるトランスディシプリナリー研究」(TD-VULSプロジェクト)を実施しています。そして私たちは、途上国の人々の中から生まれる効果的なアイデアや技術、革新的な社会の仕組みが地域社会を劇的に変容させていくプロセスに魅了され、そこから多くの新しい発想やアイデアを得て研究を深めてきました。地域の実践から学び、新しい科学を創りあげていくことが、この研究の最大の魅力です。複雑な社会生態系システムを扱う科学の最先端は、地域社会の実践の中にあるのです。

インドネシア・ポレワリの先進的カカオ農園でカカオ苗木の植え付け

今後の展望

 2020年4月から、これまでに最も多くの地域社会のイノベーターとの密な協働を実践してきた東アフリカのマラウイ共和国を舞台に、JSTと国際協力機構(JICA)による「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の中で、「世界自然遺産・マラウイ湖国立公園における貴重な自然と調和した持続可能な地域開発モデルの構築」プロジェクトを5年間の予定で実施します。開発途上国の地域社会の現場で、これまでの蓄積を集大成して、多様な自然資源の統合管理を通じた持続可能性の実現を促す総合研究を行い、その成果を国際的に発信することを通じて、SDGsの実現に貢献することを目指しています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 地域の人々の実践から学び、新しい科学を創りあげ、人類が直面する多様な課題の解決と持続可能な未来の実現に貢献していくことは、新しい科学のあり方を提案するものです。大きなビジョンをもって、持続可能な未来の実現を促す科学にチャレンジしてくださる方を歓迎します。この研究について詳しいことを知りたい方は、以下の書籍を参考にしてください。

「フィールドサイエンティスト-地域環境学という発想」 佐藤哲(著)東京大学出版会, 2016年01月 
「地域環境学-トランスディシプリナリー・サイエンスへの挑戦」 佐藤哲、菊地直樹(編,著) 東京大学出版会, 2018年01月

参考ウェブページ

地域環境知プロジェクト
TD-VULSプロジェクト