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最先端研究紹介 infinity

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2013.12.25
「昆虫を原料とした次世代型機能性養殖用飼料の開発」
南予水産研究センター 生命科学部門 / 教授 三浦 猛 / 専門:水族生理学

※記載内容は掲載当時のものです。

昆虫より発見された新規機能性物質

 三浦先生魚類養殖は、人類への動物性タンパクの供給の方法として、今後益々重要度を増して来るものと考えられます。しかし、日本で行われている海面養殖では、飼料の原料としてカタクチイワシ等天然魚由来の“魚粉”が使われており、魚で魚を育てるという矛盾した状況が生じています。
 この様な状況を打開するために、私たちの研究グループでは、魚粉の代わりに人間が食用としていないイエバエ(Musca domestica)などの昆虫(図1)を原料とした養殖用の飼料の開発を行ってきました。 

(図1) イエバエの幼虫

(図1) イエバエの幼虫

イエバエは、食品の残飯や水産加工残渣、さらには家畜の糞尿等の廃棄物から効率良く生産することができる動物性タンパク資源であり、これを人間が利用することができれば、理想的な循環型社会を構築することができます。しかし、イエバエの幼虫やサナギを直接人間が利用することには抵抗があるため、現段階では魚介類や畜肉へ変換した後に利用する方法をとるのが現実的です。
 養殖飼料中には、動物性タンパク源として50%程度の魚粉が含まれています。この魚粉をどれだけ昆虫タンパクに置換えられるかを検討したところ、イエバエのサナギだと魚粉の50%までであれば、充分昆虫に置換えることが可能であることが明らかとなりました。私たちはこの研究の過程で、イエバエのサナギが魚に対し、①誘因効果、②成長促進効果、③免疫活性化効果の3つの効果をもたらすことを発見しました(図2)。現在、これら機能のメカニズムおよび原因物質の特定を行っていますが、最近「免疫活性化」の原因物質の特定に成功しました。

(図2) ハエサナギの3つの機能

(図2) ハエサナギの3つの機能

 ハエサナギから免疫活性化物質を単離・精製し、その組成を解析したところ、この免疫活性化物質は、高分子の酸性多糖であることが判明しました。この物質は、免疫系の細胞に作用し、自然免疫の機能を向上させます。同様の多糖は、ハエ類のみでなく、カイコやヤママユガ(天蚕:Antheraea yamamai)等の鱗翅目の昆虫にも認められました(図3)。

(図3)ヤママユガの幼虫と免疫活性化物質シルクロース(矢印)

(図3)ヤママユガの幼虫と免疫活性化物質シルクロース(矢印)

 高密度で魚を飼育する「養殖」では、魚病の発生が非常に大きな問題となっています。天然物質由来で安全な自然免疫を向上させる飼料を開発することができれば、著しい生産の効率化が期待できます。私たちは、特に活性の高いヤママユガおよびカイコからとられた免疫活性化酸性多糖を「シルクロース」と命名し、魚類の耐病性を向上させる飼料添加物として、開発を行っています。

研究の特色 

 本研究の特色は、飼料および機能性物質の原料として昆虫を用いていることです。地球上に生息する昆虫は、既知のもので150万種以上、未知のものも含めれば3000万種を越えると考えられており、そのバイオマスは、全人類の15倍以上と目されています。しかし、産業への昆虫の利用は限定的であり、特にタンパク資源としての活用は非常に少ないのが現状です。本研究では、未利用の昆虫の有効活用法を開発し、持続可能な社会の構築を目指します。 
 なお、動物より機能性多糖類が発見されたのは、本例が初めてです。

研究の魅力

 産業への有効利用は、世界的に注目されていますが、学術的な研究はまだまだ始まったばかりです。基礎科学の面で多くの発見が有るとともに、産業への活用の可能性が高い成果も数多く得られる充実した研究ができるところが最大の魅力です。

研究の展望

 世界人口が急増する中、食料の安定供給は、地球規模で問題となっています。この様な状況の中、今後昆虫の有効利用は、食料産業とって大きな課題となっていくものと予想されます。現在私たちは、昆虫の魚類養殖への利用を目指して、研究開発を行っていますが、今後魚類養殖のみではなく、畜産、さらにはヒトへの利用も視野に入れた食料産業全般に渡る研究を行っていきたいと考えています。

この研究を志望する方へ

 この研究は、基礎科学により自然の原理を解明できるとともに、研究成果を社会、特に食料産業に直接還元することができる非常に欲張った、しかも充実感を味わえる研究です。この研究を行うことにより、世界の食料産業に大きな変革をもたらすことも可能です。