「魚類成長に関する新規の内分泌制御機構の発見」
※掲載内容は執筆当時のものです。
生殖腺と体成長の関係
一般的に魚類を含む脊椎動物では、配偶子形成の進行と個体の成長の間に、発生の初期から深い関係があります。しかし、これらの詳細な相互関係を分子レベルで解析した例はほとんどありません。動物の成長は、脳下垂体から分泌される成長ホルモン(Gh)により制御されていることが知られていますが、私達は最近、生殖腺が脳下垂体と同程度に魚体の成長を直接制御する事を発見しました。
具体的には、魚の精巣および卵巣に成長ホルモンが存在することを発見し(図1、2)、この精巣および卵巣を外科的に除去することによって実験魚の成長が抑制されること、除去した精巣および卵巣を、これらを除去された魚の皮下に再移植すると停滞していた成長が回復することを外科的実験で示し、生殖腺が個体の成長を司る器官であることを証明しました(図3)。
さらに、精巣および卵巣の再移植による成長回復が、再移植片で発現している成長ホルモンに起因する可能性が高いことを実験的に示しました。
研究の特色
この研究では、精巣および卵巣が、脳下垂体と同様、魚類の成長をコントロールする主要な器官であることを世界で始めて発見・証明しました。更に、効率的な魚類養殖を実践するためには、魚類の成長の制御機構を理解し、人為的に制御することが重要ですが、この性成熟と成長の研究を応用に結びつけることで、効率的な養殖技術の確立に道筋をつけました。
研究の魅力
この研究では、発生過程での生殖線の形成と性成熟が、体成長に及ぼす作用メカニズムを明らかにすることが出来るとともに、性や成熟が関係する養殖魚の成長に関する諸問題の機構を解明し、魚類養殖の飛躍的な育成技術の開発などに方向性を示すことが出来るものと期待されます。
研究の展望
魚類には、 雌雄の違いにより著しい成長差を示す種が多数ありますが、この様な魚種は、性、生殖細胞あるいは配偶子形成と成長との関係を解析するのに適していると考えられます。今後の研究では、雌の成長が早いニホンウナギ、雄の成長が早いティラピアを実験モデルとして、生殖細胞や配偶子形成への成長因子の作用を詳細に調べる事で、世代交代の主役である生殖細胞の個体の成長に対する役割を明らかにし、配偶子機構の新たな機能の探求に繋げたいと考えてます。
この研究を志望する方へ
生命の連続性を担う生殖細胞と魚類養殖、一見、何の繋がりもないように思えますが、実は深く関連しています。関連のないように思える事柄でも、皆さんのやる気さえあれば、新しい発想で、新しい発見に出合うかもしれません!愛媛県の最南端、高知県との県境に位置する美しい自然に囲まれた愛南町でお目にかかりましょう。