グローカル人材の育成を目指した食品の基礎研究から応用(開発)研究への展開

研究の概要

 皆さんは「自分の体が、自分が食べたものでしか作られないという現実」を本当に理解して、食事や日々の生活を送っていらっしゃいますか?  若い皆さんにはちょっとピンとこないかもしれませんね。 食生活と生命維持・健康増進とは非常に密接な関係にあります。私たちが日々口にしている食品には、①栄養成分の生命維持機能、②嗜好成分の感覚刺激機能、③機能性成分の生体調節機能の三つの機能があります。私たちの研究室では、食品の生体調節機能に加え、感覚刺激機能にも焦点をあて、より美味しく食べやすい機能性食品の開発を行い、みなさんの食生活がより豊かなものになることを目指しています。
 食品の機能性に関する研究では、牛乳に含まれるタンパク質のβ-カゼインやラクトフェリンに免疫促進効果が見出され、また、ラクトフェリンやシークヮーサーの葉・果皮エキスにおいても強い抗アレルギー効果をもつことが明らかとなりました。
 シークヮーサーと言えば、沖縄県の特産柑橘として有名ですが、愛媛県八幡浜市、高知県安芸市でも栽培されています。シークヮーサーの葉や果皮には、花粉症などのI型アレルギーを抑制するノビレチンというポリフェノールが、柑橘の中で最も多く含まれています。このことから、シークヮーサーの葉や果皮を活用した機能性食品の開発も行っています。

研究の特色

 食品成分の機能性評価に関しては、動物細胞培養実験技術を用いて、細胞レベルでの検討を行います(写真1)。その後、ある食品成分に一定の機能性が確認されたところで、マウス等を用いた動物実験レベルでの検討を加えます。特定保健用食品や機能性表示食品における消費者庁の認可や登録を受けるためには、ヒトレベルでの臨床研究が不可欠となってきます。教育学部では、細胞を用いた実験は可能ですが、動物実験や臨床研究は難しいことから、愛媛大学農学部や医学部および他大学の健康栄養学部等と連携することにより研究を進めています。

 実際に、開発研究の成果として、愛媛県内のねり製品メーカーとのコラボ商品である機能性白天が令和3年3月から発売されます(写真2)。原料のすり身には、私たちの特許技術を生かし、白キクラゲ由来のビタミンDと卵殻粉が含まれています。なぜなら、カルシウムの体内吸収をビタミンDが促進するからです。加えて、ビタミンDには以前からインフルエンザ等のウイルス感染症に有効であることが報告されていて、コロナウイルスに関しても血中ビタミンD濃度が30ng/mL以上の方はほとんど感染せず、重症化しないという論文が発表されています。

 さらに、シークヮーサーの葉・果皮を用いた調理法を教育学部の学生や松山市内の高校生らとともに検討したところ、葉パウダーは、クッキー、チョコレート、パン、餃子の皮、チキン南蛮のソース、ドレッシング等に高濃度で添加できることが分かりました。シークヮーサーの果皮や果肉においては、現在、高校生とともに世界初の「シークヮーサーマーマレード」の開発を進めているところで、令和3年5月に愛媛県八幡浜市にて開催されるダルメイン世界マーマレードアワード&フェスティバル日本大会にて出品予定です(写真3)。

研究の魅力

 これらの研究の魅力は、食品の機能性を細胞や動物を用いた基礎研究により解明することだけでなく、さらに調理や加工という形で応用できるところにもあります。そして最大の魅力は、生産者や食品企業との連携によって機能性食品の開発へと発展が可能なところです。また、その機能性食品を発売できた暁には非常に心地よい達成感が味わえるのではないでしょうか。
 家政教育講座には、理科教育講座を含めると、細胞培養を可能とする設備や細胞の生化学・免疫学的反応を評価する実験設備がある一定のレベルで備わっています。それらに加え、調理加工研究を実践できる調理室を完備しているところも大きな魅力です(写真4)。

今後の展望

 これまで、食品の機能性を単一の成分ごとに検討してきました。しかし、実際、体内では様々な食品成分が複合的に作用して機能しています。近年、私たちは、抗アレルギー効果を有するノビレチンの効果を乳タンパク質であるラクトフェリンがさらに増強することを発見しました。逆に、ノビレチンの効果をカカオエキスが抑制することも分かってきました。このように、食品の組み合わせによっては、保健機能発現が調節されるということです。今後は、食品成分の単独効果のみならず複合効果にも着目することで、食の機能性を多面的に捉え、食品成分の複合効果に関するデータを蓄積し、調理レシピや機能性サプリメント開発に活かしていきたいと思っています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 中学校や高等学校の家庭科教員は、ただ単に栄養素や調理法を教えるのではなく、理論的な裏付けのある指導が求められます。ここで紹介したような研究を行うことで、確かな専門性をもった家庭科教員になることができます。さぁ、皆さんも私たちと一緒に食の新たな魅力を開拓し、日々の食生活に取り入れてみませんか?