受験生
在校生・保護者
卒業生
企業・研究者
地域・一般
教職員
基金室
アーカイブ

最先端研究紹介 infinity

Print Facebook Twitter
2021.02.10
日本とドイツの美術交流
法文学部 / 准教授 野村 優子 / 専門:近代美術史

※記載内容は掲載当時のものです。

近代美術批評の誕生とジャポニスム

研究の概要

 近代において日本とドイツが親密な関係にあったことは、歴史の授業などで知っている人も多いのではないでしょうか。日本国憲法がドイツのヴァイマール憲法を参考にしていることや、「カルテ」など医学用語にドイツ語が多く使われている背景などは有名です。個人的な体験で言うと、私のドイツ留学出発時に祖父は「日本とドイツは同盟国で…」と、第二次世界大戦中の話を持ちかけました。このような話が持ち上がってくるのも、明治から大正にかけて日本はドイツに倣った国造りを行い、ドイツとの良好な関係を築いていたからです。当時、多くの日本人が学問や技術を学ぶためにドイツ留学し、そこで得た知識を日本へと伝えました。この両国間の交流は、実用的な分野だけでなく、美術という芸術面においても豊かな相互作用を生み出しています。ドイツから日本へと与えた影響は、日本近代美術批評の誕生を促し、日本からドイツへと与えた影響は、「ジャポニスム」としてドイツ近代美術工芸に新たな展開をもたらしました。

研究の特色

 日本とドイツという異なる文化を比較するのみならず、美術と文学という異なる分野を領域横断的に考察するのがこの研究の特色です。日本の近代美術におけるドイツの役割を見ていくと、ドイツ絵画の影響が日本人画家の作品に現れた例はそれほど多くありません。当時、強い影響を及ぼしていたのは、モネやゴッホなどのフランス絵画だったからです。しかし視野を広げて、西洋絵画を日本へと伝えた美術批評に目を向けると、文芸雑誌『白樺』などの美術紹介記事にはドイツ美術思想の影響が色濃く反映しています。文学という要素を取り入れたことによって日本とドイツの美術交流は鮮明となり、その研究成果を著書『日本の近代美術とドイツ─「スバル」「白樺」「月映」をめぐって』(九州大学出版会、2019年)にまとめました。現在はこれとは逆の流れ、日本がドイツ美術にもたらしたもの(ジャポニスム)に取り組み、ここでも画家や絵画だけではなく、美術商、美術批評、美術展覧会、美術工芸博物館など、美術を取り巻く環境全体を対象として多角的に研究を進めています。

研究の魅力

 日本とドイツの美術交流について研究しようと思ったきっかけは、五年間のドイツ留学経験にあります。私は西洋文化に憧れてドイツへと向かったわけですが、滞在先では日本文化に憧れる多くのドイツ人と出会いました。私の視線はずっと西洋に注がれていたのに、彼らの視線はずっと日本に注がれていた。その双方向に向かう憧れはとても好ましく、その相思相愛な交流を広く知らせたいと思うようになりました。日記、書簡、雑誌、新聞など当時の人々の声に耳を傾け、出来事と出来事を結びつけながら、彼らは互いの文化に何を求め、何を見つけて形にしたのか、それを探る研究は謎解きのような魅力に満ちています。人種など様々な分断が健在化する現代社会において、互いをリスペクトしつつ自国文化を発展させた過去を知ることは重要なのではないでしょうか。

今後の展望

 ドイツにおけるジャポニスム研究を進め、一冊の本にまとめることが今後の目標です。この研究では、日本美術商ジークフリート・ビング(Siegfried Bing, 1838-1905)、美術批評家ユーリウス・マイアー=グレーフェ(Julius Meier-Graefe, 1867-1935)、建築家アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ(Henry van de Velde, 1863-1957)の三者を中心に、ドイツにおいて日本美術が受容される過程を追っています。とくに、パリでアール・ヌーヴォー店を開業したビングが参加した「ドレスデン国際美術展」(1897年)は、その後のドイツ近代美術工芸にひとつの指針を示したと考えられるため、この都市を中心に調査を行う予定です。他にも、19世紀後半のドイツ主要都市で次々に開館した美術工芸博物館が、収集品として日本美術を重視した背景を明らかにしたいと思っています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 日本の美術教育は実技ばかりに重きが置かれ、その歴史や価値については軽視されがちです。実際に学生に聞いても、これまで美術史を体系的に学んだことのある人はほとんどいません。そのため、絵を描くことが苦手だと美術からも縁遠くなり、本当に勿体ないと思います。美術を含む芸術は実益とは結びつきませんが、人生を豊かに生きるには欠かせません。歴史や背景を知ることで作品の価値は分かっていきますし、多くの作品に触れることで美的感覚も養われます。美術が好きだという私のような人にとって、この研究はもはや学問を超えた楽しみとなることでしょう。