見えないものを見るイメージング新技術の開発

研究の概要

 見えないものを見えるようにすることによって科学は発展してきました。2019年に発表されたブラックホールの画像は望遠鏡と画像情報処理の可視化技術の進歩により達成され、大きな話題となりました。顕微鏡は私たち人の目では直接見えないミクロな生物の世界を映し出してくれます。顕微鏡は1590年にオランダのJanssen親子が初めて作ったとされています。1665年にRobert Hookeが細胞の観察記録を出版し、顕微鏡による細胞観察が始まりました。それ以降顕微鏡技術の発展があり、現代において顕微鏡は光学、電子機械工学や情報科学技術との融合でデジタルに4次元画像計測を行う装置となっています。我々の研究室でもこのような異分野の技術を融合してこれまで見えなかったものを見えるようにして、複雑な細胞の4次元社会の理解に繋げる研究を行っています。

 

研究の特色

 動物の体は多数(ヒトの場合には60兆個という説があります)の細胞から構成されています。多細胞体は3次元空間に広がりを持ち、時間が経過すると変化します。細胞一個一個についてその様子を見ることができればいいですが、実際はなかなか難しく、ここに現代科学技術は挑戦している最中です。4次元というのは、空間3次元と時間を合わせてそう呼びます。では、3次元で画像を計測するとはどういうことでしょうか?これを説明するためのキーワードは“デジタル“です。顕微鏡というと接眼レンズを覗くというのを想像するかと思いますが、この像は3次元ではありません。画素をデジタルに3次元空間的に配置したものが3次元画像です。つまり、スマートフォンに搭載されているような通常のカメラで撮れる2次元画像を何枚も積み重ねて3次元構造を持つようにしたものとなります。現代の(蛍光)顕微鏡では、レンズ以外に、レーザー、微小電子機械、デジタルカメラ、電子制御ソフトウェアを組み合わせて生物の中の3次元情報を取得して、後でコンピュータ上に3次元的に復元する方法を取っています。このデジタル顕微鏡の種類はたくさんありますが、私たちの研究室では、”ライトシート顕微鏡“の開発を行ってきました。ライトシート顕微鏡は少し変わった顕微鏡で、対物レンズ焦点面の側面から照明光を入射して、画像計測する装置で、生きた小型の動物を観察するのに適した顕微鏡です。私たちは、波長700nm-1300nmの近赤外光を用いた特殊な技術を使って、生きたメダカの中の細胞社会を単一細胞レベルで長期間に渡って高速に観察をすることができる新しいライトシート顕微鏡を技術開発しました。撮影された画像はデジタル情報としてコンピュータの中に構成されます。この4次元画像を解析する技術開発も同時に行っていて、顕微鏡というハードから画像処理というソフトまで含めて、これまで見えなかったミクロな世界を見えるように、そして、私たち人に理解できるようにする研究開発を進めています(下図)。

 

研究の魅力

 私たちの研究は様々な分野にまたがった異分野融合研究です。顕微鏡技術は物理学・工学、画像処理技術は情報科学、新しい生命現象の発見は生物学・医学です。多分野であるために必要となる知識も膨大で大変なこともありますが、同時にそれぞれの分野の楽しいところを味わえるという魅力もあります。複合的な知識・技術を集約して、新しいものを見つける研究はこのような学際的研究の醍醐味であり、楽しみながら研究をしています。

今後の展望

 生命現象を生きたまま見る生体蛍光イメージングの今後は、これまで見えなかった体のより奥深くを見る研究、動物を構成する全ての細胞を見る研究、網羅的に生体分子の働きを見る研究、ミリ秒やマイクロ秒といった超高速に生命現象を見る研究が進んでいくことと考えられます。このような方向性でのイメージングの技術革新が生命科学の進歩を支えていくことは間違いありません。異分野融合研究を積極的に推進して、生命科学の発展の一端を担いたいと考えています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 異分野融合研究は多くの知識が必要と上に述べましたが、初めから知識を持っている必要はありません。私は、元々は数理物理学を専攻しており、生命科学の知識はありませんでした。数理・情報科学を入口として、機械工学・顕微光学・生命科学といった知識を付け(今もその途中ですが)、今に至っています。自分の得意とする分野をもとにイメージングの世界に参入してもらえると嬉しく思います。