村ってなんだろう???
※掲載内容は執筆当時のものです。
インドネシアで考える、グローバルでローカルな村のかたち
研究の概要
私の専門は東南アジア地域研究です。特にインドネシアの農山漁村でのフィールドワークを通して、村の自治と資源管理に関する研究と実践に取り組んできました。
インドネシアは、豊かな海と森に恵まれ、300以上もの民族が暮らしています。民族にはそれぞれの言語があり、慣習や文化も異なります。ガンポン、マルガ、ナガリ、フタ、デサなど「村」を表す言葉も民族・地域によって様々で、村の成り立ちや仕組みもきわめて多様です。そんな村々を、画一的な基準で整備、開発しようとすると、さまざまなズレや問題が顕在化します。村は、ローカル、ナショナル、グローバルな価値基準やアクターが交錯し、変化しつづける最前線です。そんなインドネシアの農山漁村をフィールドとして、グローバルな時代の村の自治のあり方を考えています。
研究の特色
皆さんは、「村」というと何をイメージしますか?農村部の末端の行政単位でしょうか。それとも、人々がまとまり意識を感じている社会的単位でしょうか。日本の村落研究では、前者を行政村、後者を自然村として、共有地の管理や相互扶助慣行がみられる自然村(ムラ)の自治・資源管理能力が注目されてきました。
インドネシアの場合、ムラのかたちは地域により極めて多様です。こうした多様性は、村落開発を効率的に進める上では障害になると、1970年代から画一的な行政村の設置と整備が進められました。しかし、2000年代にはいると、民主化・地方分権化政策の下、ムラの多様性とその自治・資源管理能力を尊重し、復興させる方向へと大きな政策転換がおこります。そこには、「コミュニティを基盤とした自然資源管理」や「ローカル・ガバナンス」などに対する国際機関からの支援の存在も影響しています。とはいえ、人々の生業や生活様式は変化し、かつてあったムラの機能が形骸化している地域もありますし、行政組織の看板を掲げているが実質的にはムラが機能している地域もあります。行政村とムラ(自然村)に分けて考えること自体意味をなさなくなっています。
村の特徴をいかに動態的に捉えればよいのか。東南アジア研究の仲間たちと今すすめているのは、村の住民組織を「社会組織」「協同組織」「行政組織」「開発組織」に便宜的に分けて把握し、その相互関係や相互作用を、外部からの介入や環境の変化も考慮にいれつつ、見ていくことです。東南アジア各地との比較の中から、新たな発見も生まれています。
研究の魅力
地域研究では、対象地域の言語を習得し、比較的長期(数カ月から数年)のフィールドワークを通じて対象地域への理解と関わりを深めていきます。フィ―ルドワークでは、テーマを絞った聞き取りや悉皆調査も行いますが、一番の醍醐味・魅力は、村を歩いたり、村人との何気ないおしゃべりなどをきっかけに得られる想定外の発見や気づきです。「なんだ、これ?」という些細な疑問やもやもやとした違和感を(すぐに解決できずとも)頭の隅に置いておくと、ときにそのいくつかがつながって、絵になって理解できてくることがあります。その発見と歓びが次なる調査への原動力になっています。
今後の展望
インドネシアではじめてのフィールドワークをおこなってから25年あまりが経ち、インドネシアも日本も世界も大きく変化してきました。インドネシアでも若者の農村・農業離れが深刻化しつつある一方で、農村・農業を基盤にインターネットも駆使しながら起業する若者がメディアで取り上げられることもあります。ローカルでグローバルな、新たな村のかたちが生まれつつあるのかもしれません。
愛媛大学では、日本とインドネシアの学生が四国とインドネシアの農山漁村に滞在しながら学びあう「SUIJIサービスラーニング・プログラム」を2013年度から実施しており、私も担当しています。今後は、研究・教育・実践をより連関させ、日本とインドネシアを往還しながら、農山漁村の経験と現状に学び、今後おそらくよりローカルでよりグローバルになるだろう村のあり方を若い世代と共に考え、創っていけるような取組を展開していきたいです。
この研究を志望する方へのメッセージ
インドネシアは愛媛大学の国際連携の拠点の一つです。インドネシアを体感できる様々なチャンスがあります。異国に身を置き、異文化を理解しようとすることは、自分自身に向き合うことでもあります。多様な民族が暮らし、多様な宗教・信仰があり、豊かな森と海に囲まれ、開発と環境の課題も山積しているインドネシアは、あなたの新たな側面・可能性を引き出してくれるはず。「一皮むける体験」が待っています。一緒にインドネシアで学びあいませんか。