IoTを支える有線・無線通信技術の開発と社会実装応用に関する研究

研究の概要

 愛媛大学工学部工学科電気電子工学コースでは、電気・電子・情報通信に関する基礎から先端分野にわたる広い範囲の教育を行っています。私の所属する情報通信分野では、(1)高密度ディジタル磁気記録および光記録システムのための信号処理、(2)サブ波長構造の微細な光学素子やホログラムの解析、および(3)IoT(Internet of Things)通信システムに関する研究を行っています。
私は(3)の研究に従事しており、スペクトル拡散通信技術と呼ばれるノイズに強い通信方式を応用した、電力線通信(PLC)やLPWA(Low-Power Wide-Area)無線によるIoTシステムの研究開発と社会実装応用を、従来から行っています。機械学習(ML)によるロボット制御がご専門の杉本大志助教が着任されてからは、MLを使ったちょっと気の利いた通信システムの実現を目指しています。

研究の特色と魅力

〈2・1〉 一線式PLCとSmart EMCに関する研究

PLC (Power-Line Communication)は、電力線を通信路としても使用するので、エネルギーと情報を同時に伝送する合理的な通信方式です。国内で市販されているPLC装置は、通信信号を電力線の2線間に電圧重畳しています。この伝送モードは、ディファレンシャルモードと呼ばれています。しかし、分電盤や変圧器での信号減衰が大きいため、オフィスビル内でフロアをまたいだPLC通信は困難でした。この問題を解決する方法として、私たちは図1に示す一線式PLCを提案しています。電力線の2線(L1L2)をまとめてフェライト等でクランプし、見かけ上一本線としてPLC信号を伝送します。通信信号の帰路は大地であり、コモンモードと呼ばれる伝送モードを用います。

 

このコモンモードは電力線からノイズを輻射する要因となるため、従来は積極的に利用されることはありませんでした。しかし、これをうまく管理さえできればフロアまたぎのPLC通信が可能になったり、欧米ではMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)と呼ばれる送受信機間の通信路を増やす手段として利用されたりしています。この管理技術を私たちはSmart EMCと命名しています。EMCはElectromagnetic Compatibilityの略号であり、ノイズを輻射しない、あるいはノイズの影響を受けないための技術のことです。

それまでタブーとされていたことを、逆転の発想で乗り越えていく点が、この研究の醍醐味です。

〈2・2〉 LPWA無線によるIoTシステムの研究

IoTシステムにおいて、センサーデバイスとゲートウェイ間を無線接続する場合、通信速度が低くても構わないのであれば、低消費電力かつ広範囲の無線通信が可能なLPWA技術が使われます。私たちは、図2に示すLoRaWANと呼ばれる920MHz帯のLPWA無線システムを従来から構築し、実際に運用しています。無線局免許が不要な20mW出力で、写真のように電池2本にもかかわらず、60km(伊予市―呉市間)の飛距離を達成する点が、この無線技術の魅力です。

 

今後の展望

この無線技術を応用した社会実装プロジェクトの一つが、図3に示す小型船舶衝突回避を目的としたLoRaビーコン装置の開発です。自船の位置(GPS)情報を3秒毎に送信し続けることにより、互いの船間距離が分かるようになります。自動車と同様に、ドローンや船舶の自動運転システムの実現を目指しており、その第一段階の研究開発です。

 

この研究を志望する方へのメッセージ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、みなさんの学びの形は随分変わったのではないでしょうか?Zoomなどを使った遠隔・オンライン授業が導入され、Giga school構想などによって生徒1人1台コンピュータ環境が実現されました。産業界もテレワークの導入によって、新しい働き方が問われています。

そこで登場したのが「デジタルトランスフォーメーション」(DX)です。ディジタル技術の活用により、大きなイノベーションを起こす、という概念のことをいいます。現実の社会で起きている様々な事象を、コンピュータ(サイバー空間)で再現し、MLやAI(人口知能)を使って、ちょっと気の利いたサービスを実現するのがIoT、その先にあるイノベーションがDXと言えます。DXを担う読者の皆様にとって、いろいろな切り口があると思います。私たちが従事しているディジタル通信技術の開発や通信システムの構築もその一つです。いろいろな通信システムを一緒に構築してDXを推進していきましょう!