水環境のモデリングとコントロール

block_37827_01_m 「水」は、全ての“生命(いのち)”を支える最も基礎となる物質であり、人間活動の前提条件となっています。私たちの研究室は、その「水」を対象として、流域環境と生態系保全に配慮した「水資源」と「水環境」に関する研究を行っています。  具体的には、河川・ため池・農業用水路等における水の流れとそれに伴う物質輸送、その影響下にある生物の挙動に関するシミュレーションモデルの開発に取り組んでいます。開発されるモデルは、どのように水の流れをコントロールすれば、全ての生き物にとっての最適な水環境が創造できるのかという問題を検討する際の強力な“武器”になると考えています。

研究の特色

 block_37840_01_m現在のキーワードの一つに“生物多様性”があります。それは人類存続の基盤と考えられています。私たちが水を得るために河川に設ける堰(せき)は、そこで魚類等の行き来を遮断してしまうため、生物多様性に負のインパクトを与えます。それを少しでも緩和するために、「魚道(ぎょどう:魚のための通り道)」が設置されています。最適な魚道を提案するために、まず、魚道の中の流れを再現するモデルを開発し、コンピューターを用いてシミュレーションを行います。これにより、最大流速がどこで発生し、どの領域で魚が休息できるかなどの情報を得ることができます。

 さらに、その水の流れが遡上する魚にとって“最適”であるかどうかを決定するため、対象としている魚の挙動をモデル化し、コンピューターの中で魚を泳がせます。魚の挙動のモデル化には、高校の物理で勉強するニュートンの運動方程式と数学で勉強する正規分布などの確率統計論を組み合わせています。このような、流れのモデルと魚の挙動モデルのセットによって、どのような魚道型式がよりたくさんの魚を遡上させるのかという検討が可能となります。

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バーティカルスロット式魚道の流れ

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魚の遡上経路

 

 block_38016_01_m最近、「魚道」は水田にも設置されはじめています。昔は普通に見られたメダカが、絶滅の危険が増大している種に指定されています。農村は生物多様性に富んでいるとの思い込みがあるかもしれませんが、実は劣化が進んでおり、その反省から“生物のにぎわいのある農村”をキャッチフレーズに、環境に配慮した農業水路がつくられるようになり、水田に魚道を設置してメダカ、フナ、ナマズ等を遡上させようとしています。現在、私たちの研究室では、河川から水を取り入れて、農業用水路で水田に導き、水田魚道と農業排水路で河川に戻すという一連の水の流れをシミュレーションし、その流れにメダカなどを泳がせて、たくさん上らせるにはどのようにすればいいのかというモデルの開発に取り組んでいます。

 

研究の魅力

 block_38015_01_m私が所属している農学部地域環境工学専門教育コースは、いわば「地球のお医者さん」を養成する専門教育コースです。その中で、私は人間活動のエネルギー(食料)を生み出す細胞(農耕地)に栄養を運ぶ血管網(農業用水路)を健全に機能させる循環器系を専門とする医者であると思っています。循環器系を健全に保つことで、ミクロスケールでは一枚の水田、メソスケールでは一つの流域(例えば道後平野など)、そして、それらの集合体として、マクロスケールやグローバルスケールの水環境を豊かなものにして、“生物のにぎわいのある地球”を持続的に存在させることに携わっているということが誇りであり、研究の魅力です。

研究の展望

 近年の食料生産の増加は、安易な地下水開発によってもたらされているところが多く、インドやアメリカなどの一部では、近い将来、地下水の涸渇により食料生産ができなくなってしまうと予想されています。水を持続的に使用するためには、地球上を循環する水の速度を考えた利用をすべきです。そのために、これからはより高精度に循環速度と循環ルートを明らかにする必要があり、その確かな情報を基礎として、「水資源の確保」と「水環境の保全」を考えていかなければなりません。

この研究を志望する方へ

 水問題は自然科学のみでなく社会的背景も関わる複合的な問題であることから、幅広い知識と多面的な考え方が求められます。もちろん、高校で学ぶ数学・理科・英語の基礎知識の習得はいうまでもないことです。
 「21世紀は水の世紀」と言われています。これから益々その重要性が高まる水の“賢い使い方”を一緒に探していきましょう。