多変数多項式から生まれる代数的構造物の謎に迫る

 block_30743_01_m私の専門分野は可換環論です。可換環とは加法・減法と可換な乗法が定義された代数系のことです。整数の全体、多項式の全体は、これらの世界で良くご存じの加法・減法・乗法が自由に計算できますので可換環ですが、自然数の全体は引き算ができないので可換環ではありません。とくに多変数多項式の世界に興味があります。高校数学に登場する多項式の変数は多くてx、y、zの3つですが、100個、200個の変数が登場する多項式をイメージしてください。それを派手に掛けたり割ったり、時には微分したりして楽しんでいます。
 修士の学生以来、多項式環に関するいろいろな論文を読んできましたが、とりわけAnthony V. Geramita先生と渡辺純三先生による数々の論文には計り知れない影響を受けました。幸運にも両先生との共同研究は今も続いています。

研究の特色

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可換環論の専門書

 一つの多変数多項式のすべての高次導関数を同時に考えると、必然的に、0次元のゴレンスタイン環と呼ばれる代数的な構造物が出現し、それが非常に不思議な、また、美しい振る舞いを示します。この分野の研究は、私が生まれた頃から始まったものですが、まだまだ、未解決問題がたくさん残っています。しばらくはゴレンスタイン環のヒルベルト関数とベッチ数列に関する研究をしていましたが、最近は、ゴレンスタイン環の代表的な例である完全交叉のレフシェッツ性問題に取り組んでいます。0次元ゴレンスタイン環は、ある条件をみたす乗法が定義された有限次元ベクトル空間に他ならず、レフシェッツ問題とは、その空間に関する最強のジョルダン分解を求める問題です。ひたすら手計算の毎日、紙と鉛筆の世界です。(数学の研究内容を、皆さんに紹介するのは難しいですね。)

研究の魅力

 30歳の誕生日を迎える頃、ヒルベルト関数の計算に熱中し、ある時、一般次元の公式を見つけました。この計算結果から、一つの定理を得ることができ、私の初めての論文となりました。人より随分遅いデビューでした。それまで数学実験は失敗の連続でしたので、そのトンネルの出口がやっと見えたような気持ちになりました。研究は、「連戦連敗、勝つまで負ける」です。その1勝にしばらく酔いしれた後、また次の勝ちを目指します。

 

研究の展望

共同研究者たちと

共同研究者たちと

 0次元ゴレンスタイン環は、可換環論、代数幾何学、組合せ論、表現論など代数学の多くの分野の接点に位置しており、様々な「解釈」が可能です。いま取り組んでいるレフシェッツ性問題の研究では、各分野の専門家が6人集まり、完全交叉と呼ばれる構造物の新しい解釈を探っています。まだ誰も気づいてないきらりと輝く星を見つけたいです。最近になり、ようやくこの研究に関心をもつ国外の研究者が増えてきました。国内ではまだまだですが…

 

 

 この研究を志望する方へ

 数え切れない失敗をしないと前へ進めないように思います。数学の知識を増やすことも必要ですが、「数学実験」の失敗に耐え続けられる、それが一番大事でしょうか。