超高圧実験で地球の深部を探る
※掲載内容は執筆当時のものです。
先進的・独創的研究で地球深部科学の国際的拠点を形成
マルチアンビル装置という大型の超高圧発生装置を用い、地球のマントルや沈み込むプレートを構成する物質が、地球深部の高い圧力と温度のもとで、どのように変化するかを調べています。
オーストラリアのキャンベラで研究員をしていた頃、このような実験結果に基づき、A.E.リングウッド教授とともに、沈み込んだプレートがマントル深部の660km付近で、巨大な塊「メガリス」を形成するモデルを提唱しました。
メガリスの存在は、その後1990年代に地震学者により検証され、一躍有名になりました。2006年に封切られた映画「日本沈没」(小松左京原作)では、このメガリスの崩落が、日本沈没のメカニズムとして採用されています。
一方で、X線領域の波長を持つ強い光である放射光を利用し、高温高圧下での反応をリアルタイムで観察する、X線その場観察技術の開発もすすめてきました。特に1997年秋に完成した、世界最大の放射光実験施設「スプリング8」において、下部マントル鉱物のX線その場観察実験に成功し、スプリング8全体で最初の研究成果を、1998年3月にサイエンス誌に発表しました。ちなみに、この折実験をおこなった私と井上徹助手(現在本センター教授)を中心とした愛媛大チーム(写真1)の学生4人のうち、その後3人が博士号を取得しました。このうち1人が九大准教授、1人が愛媛大准教授となっており、放射光科学分野の最先端で活躍しています。
その後も、放射光と超高圧実験を組み合わせ、地球深部での炭酸塩鉱物の安定性と炭素大循環(2003年ネイチャー誌発表)、高圧相の弾性波速度測定とマントル遷移層の化学組成(2008年ネイチャー誌発表)、下部マントル中でのFe2+のスピン転移と密度変化(2010年サイエンス誌発表)など、様々な研究成果をあげています。この結果、スプリング8を利用する数百のユーザーグループの中から選ばれた、5つの「パワーユーザー」の1つに認定されています。
また、超高圧実験技術の応用により、未知の物質の合成にも挑戦しています。特に愛媛大学に赴任した1989年から長年取り組んでいるのが、ダイヤモンドの合成です。ダイヤモンド合成は1950年代にアメリカなどで成功していましたが、これは1粒の結晶をゆっくり成長させた「単結晶」です。このような単結晶は、5万気圧・1500度C程度の圧力温度条件で触媒を用いて合成されます。これに対し、これらよりはるかに高い圧力15~20万気圧と、2000度Cを大きく越える温度のもとで、「多結晶」のダイヤモンドが生成することを明らかにしました(2003年にネイチャー誌に発表)。このダイヤモンドは、10ナノメートル(1ミリの10万分の1)程度の小さな結晶の集合体であり、しかも通常のダイヤモンドより硬い「世界最硬」物質であることがわかりました。このダイヤモンドは、ヒメダイヤと名付けられ、現在もその大型化や実用化に取り組んでいます。
研究の特色
地球内部を研究する方法として、地震により発生した地震波の伝播などを用いる地球物理学的な観測的手法と、地表にもたらされた岩石や鉱物の野外調査に基づく手法などがあります。地球深部ダイナミクス研究センターでは、これらの伝統的手法と異なり、実験と数値計算による研究を行っています。私は実験系のグループに属し、超高圧装置や各種の分析装置・放射光などを組み合わせ、また独自の実験技術や装置を開発することにより、地球深部の物質科学的研究に取り組んでいます。
2001年に設立された本センターにおいて、世界最高水準の超高圧装置群や分析装置類を設置し、また数値計算分野の研究者との協力も得て、先進的・独創的な研究活動を行っています。
研究の魅力
地球深部に対応する、超高圧高温という極端条件下での実験技術は、地球科学者が中心となり開発がすすめられてきました。様々な技術開発や周辺技術を取り込むことにより、発生可能な圧力温度は年々上昇するとともに、新しい測定技術の開発もすすんでいます。このような超高圧高温状態は未知の世界であり、我々が知らなかった現象の発見や、新しい物質の合成が相次いでいます。このようにして、地球科学や物質科学のフロンティアを切り拓く点に、大きな研究の魅力を感じます。
研究の展望
世界最硬ヒメダイヤを超高圧発生装置に応用することにより、更に高い圧力の発生や、より精度の高い実験が可能になると考えています。これにより、地球のマントル最下部や核の物質・沈み込むプレートの物質科学的研究、またそのダイナミクスや進化過程、更には地球外惑星の内部物質へと研究を進展させたいと思います。
一方で、ダイヤモンドを越える新たな超硬物質の開発や、新奇超伝導物質の合成など、超高圧実験技術を利用した学際的研究の展開も図りたいと考えています。
この研究を志望する方へ
理科系の基礎学力も重要ですが、なによりもやる気があることが大切です。また、研究への高いモチベーションを持ち、世界をリードする研究成果を発信するには、美しいものに感動する感性や、語学力・表現力も重要です。一方、実験には体力や手先の器用さが必要な場合もありますし、チームワークが大事な局面もでてきます。
これらのことを考えると、理科系以外の国語、英語、社会、美術、音楽、保健体育、技術家庭など、高校で学ぶあらゆる科目に意味があります。これらの幅広い素養とともに、(勉強に限らず)これだけは他人に負けないというものを複数持つことが重要です。