遊びをとおして引き出される学び

 block_2104_01_m一般に遊びと学びとは正反対のものと思われています。勉強はしなければならないものだけれど、楽しくなくてしたくないもの、遊びは楽しくて自分からやってみたいけれど、さほど価値がないものというわけです。
 さて幼稚園での子どもたちの生活は遊びが中心です。そして自由な遊びこそが幼稚園「教育」の中核です。幼稚園の子どもたちは遊んでばかりいるのに、それこそが教育であるという考え方は一般の考え方とは異なりますし、そのため少し理解しにくいかもしれません。

 

 

雨樋を組み合わせて水を流す遊び

雨樋を組み合わせて水を流す遊び

 愛媛大学教育学部附属幼稚園で行った研究の一つが、雨樋を組み合わせて水を流す遊びです。この研究では、子どもたちが砂場に水を流すのに使っているホースの代わりに雨樋を多数置いておきました。子どもたちは何とか水を砂場に流し込もうと、雨樋を試行錯誤しながら組み合わせて水を流そうとしました。樋の組み合わせ方、傾け方、土台の作り方などを何日もかけて発見し、その工夫は友達との間で共有されました。この雨樋を組み合わせた遊びは子どもたちの自発的な活動ですが、その中で様々な学びが引き出されたのです。

 

 

ジャンボ紙トンボの実験

ジャンボ紙トンボの実験

もう一つの研究は、同じ幼稚園で行った紙トンボ(紙で作った竹トンボ)を使った活動です。この遊びの場合には、紙トンボの導入、紙トンボの飛ばしっこ、ジャンボ紙トンボの実験など、教師がより積極的な役割を果たす活動を行いました。つまり教師側が遊びを提案し、子どもたちがそれに乗ってくるという形態です。ここでは毎回の活動の目的はあらかじめ教師側が考えており、学びはある程度意図的に引き出されました。

 

 二つの活動は遊びのあり方は異なるものの、その遊びの中で科学的な学びや、友だちと意見を交わすことについての学びなど、さまざまな学びが引き出されたという点では共通しています。研究の結果、幼児期の子どもたちの学びを引き出すためには、子どもたちが体を使って行う活動であること、挑戦的な課題で興味を引き出すこと、子ども同士や子ども−教師が共同することが重要であること、そしてメインとなる疑問を解決しようとするときに思考が促されることなどを見いだしました。

研究の特色

ソウルでの学会発表

ソウルでの学会発表

 ここで簡単に紹介した2つの研究は、いわゆる実践研究と呼ばれる研究です。実践研究にも様々ありますが、私の研究では、幼児期の科学教育で何を重視して実践していけばよいのかを検討しました。幼児期の遊びを中心とした教育では、小学校のように教科書や黒板を使って教えるわけではありません。遊びの中で学びを引き出すことはなかなか難しいですし、実際にやってみるまでは分からないことが多いのです。しかしながら、これまでの研究で共通点も見つかって来ました。それは、メインとなる疑問をどのように「子どもたち自身が追求してみたい疑問」とするのかがキーポイントではないかということです。

研究の魅力

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ダンボールピース

 幼児期の遊び研究の一つの魅力は、実際の役に立つことです。私の研究であれば、幼稚園や保育所の先生方に研究の成果を広げていくことで、理科や科学が苦手な先生方でも、子どもの科学的な学びを引き出すヒントが得られます。実際に幼稚園や保育所で実践してくだされば、子どもたちが幼いときから科学的な思考力を高めたりすることにつながるのです。
 もう一つの魅力は、何よりも楽しいことです。教える側が楽しくなければ、また楽しまなければ、子どもたちが楽しく感じてくれるはずもありません。実践を準備しているときには、それこそワクワクします。もちろん実践が終わって考察をし、論文を書くときには、それなりに苦しむのではありますが。

研究の展望

 昨年から、美術教育の先生とも共同して、幼稚園の保育にアート的な活動を取り入れたり、それをサイエンスと融合していったりする実践研究に発展させています。まずは手始めに、ダンボール・ピースを多数組み合わせて立体的な構成をするような遊びを行っています。これには地元のダンボール会社も協賛してくれていて、今後かなり発展性のあるユニークな試みになりそうです。

この研究を志望する方へ

 このページを読まれている方のかなりの方は、これから大学や学部を選ぼうとしている高校生や、大学院に進学を希望している大学生でしょう。中でも幼稚園や保育所の先生になろうと思っている人もいるかもしれません。幼稚園や保育所の先生は、子どもたちを成長させる技術も持ち合わせていなければなりません。質の高い保育者を目指そうとする人たちには、ぜひ経験してもらいたい研究だと思います。