植物が持つ力を引き出して、環境問題を解決

block_20730_01_m私たち人間・動物は、おなかが減れば食べ物を探して手に入れ、ノドが渇けば水を飲み、暑ければ日陰を探して移動します。それに対して植物はどうでしょう?
植物は根をはった場所から移動することができません。松山でも冬の寒い日には氷点下まで気温が下がり、夏の強い日差しで熱せられた地面の近くは40℃を越す場合もあります。このような幅広い温度の変化に植物は耐えています。また、雨が降らず水不足になった場合を考えてみましょう。植物は乾きに耐えて、次の雨を待ちます。しおれて元気がなくなってしまった植物も、雨が降ると水を吸って再び成長を始めます。
このように植物は様々な環境の変化(環境ストレス)に対応する手段(ストレス耐性)を持っています。では、植物はどのようにして環境の変化に耐えているのでしょうか?
寒くなると野菜がおいしくなる、水やりをひかえて育てた方がトマトや果物がおいしくなる、という話を聞いたことがありませんか?低温や水不足にさらされると、植物は細胞の中にアミノ酸や糖をためてストレスから細胞を守っていることが知られています。人間はこれらの物質をおいしいと感じているのだと思われます。
植物は環境の変化を様々なセンサーで検出しており、その情報が細胞の中を駆け巡っています。その過程でいろいろな情報が組み合わさり、最適な対策が導き出され、遺伝子のスイッチのオン・オフが調整されたり、タンパク質の状態が変化したりします。つまり、植物の細胞の中ではコンピューターの様な情報処理が行われているのです。
私たちの研究室では、高温や乾燥に植物がさらされた時に、細胞内でどのような情報処理が行われているかについて研究を行っています。

研究の特色

植物が環境の変化に耐えるために主要な役割を果たす遺伝子や、その遺伝子の働きを制御する仕組みついての基本的な部分は、主に実験植物のシロイヌナズナを使って明らかにされつつあります。しかし、植物の種類によって環境の変化に対する強さは異なります。涼しい気候を好む植物もあれば、とても高い温度まで耐えられる植物もいます。このような違いはどこから生まれるのでしょうか?シロイヌナズナにはない独自のストレス対策をしている植物はないのでしょうか?
こうした疑問を解くためにはまだまだ調べなければならないことがたくさん残されています。私たちはシロイヌナズナと、トマトなどの他の植物を比較することで、植物の環境ストレス応答の詳しい仕組みを明らかにするために研究を進めています。

写真:37℃を経験したトマト(B)は、未経験のトマト(A)よりも高い温度に耐えられるようになる。

37℃を経験したトマト(B)は、未経験のトマト(A)よりも高い温度に耐えられるようになる。

 

研究の魅力

写真:緑色蛍光タンパク質(GFP)をつかった、遺伝子発現制御タンパク質の解析。

緑色蛍光タンパク質(GFP)をつかった、遺伝子発現制御タンパク質の解析。

以前、植物の凍結耐性を向上させる遺伝子の研究に関わったことがあります。遺伝子組換えでこの遺伝子の働きを強くした植物と、普通の植物を同時に氷点下の温度にさらすと、遺伝子組換えをした植物だけが生き残ります。しおれてしまった植物のとなりで、遺伝子組換え体だけがぴんと葉を伸ばしている姿を初めて目にしたときには感動しました。  このように、人間の手助けで植物の隠れた能力を引き出すことができたときには大きな喜びを感じます。

 

 

研究の展望

写真:研究に使用する植物 A:シロイヌナズナ、B:マイクロトム(わい性トマト)、C:ミヤコグサ(マメ科植物)、D:シロイヌナズナ懸濁培養細胞、E:マイクロトム懸濁培養細胞。

近年、ゲノム解読装置の性能向上が目覚ましく、今後は野菜など身近な植物のゲノムが次々と解読されていくでしょう。そうして得られたゲノム配列をもとに、細胞の中でどんなことが起きているかを予測できるようにしたいと考えています。そのためには、信頼性の高い基礎データが必要になります。精度の高い予測が可能になれば、その先にはコンピューターを使って生物のゲノムを設計する時代が待っているのではないでしょうか。そう遠くない将来だと思います。

写真:研究に使用する植物
A:シロイヌナズナ、B:マイクロトム(わい性トマト)、C:ミヤコグサ(マメ科植物)、D:シロイヌナズナ懸濁培養細胞、E:マイクロトム懸濁培養細胞。

この研究を志望する方へ

植物の生命力に興味を持っている人、科学の発展が明るい未来につながると信じている人、お待ちしています。