銀河・巨大ブラックホール・暗黒物質から探る宇宙進化

 メインテーマとしては、宇宙進化を探るために、深宇宙探査(ディープ・サーベイ)をいろいろな波長帯で行っています。深宇宙探査というのは、ある波長帯で、ある天域を非常に長い時間をかけて観測し、新たな種類の天体を探す研究手法です。  私たちのグループでは、主として、可視光、中間赤外線、遠赤外線、電波の波長帯で宇宙を調べています。遥か100億光年彼方の銀河をいろいろな波長で探査すると、銀河の進化する様子が見えてきます。私たちの研究成果は、今まで10数回プレス・リリースされました。深宇宙探査の醍醐味は、何が見つかるかわからないことでしょうか。 

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米国ハワイ島マウナケア山にある国立天文台すばる望遠鏡のドームの前で

研究の特色

 宇宙の研究は、他の自然科学の研究と大きく異なる点があります。それは、天体を手に取って調べることができないことです。そのため、直接重さを測ったり、大きさを測ったりすることができないという歯がゆさがあります。結局、天体の素性を知るためには、望遠鏡を使って天体からやってくる微弱な電磁波を検出して調べなければなりません。
 私たちのグループでは、ハッブル宇宙望遠鏡や国立天文台すばる望遠鏡など、最先端の望遠鏡を駆使して、銀河、巨大ブラックホール、暗黒物質の進化を、宇宙の大規模構造の進化と絡めて研究を展開してきています。研究対象が多岐にわたっているのが一つの特徴ですが、これは宇宙を総合的に理解するためには必須のことです。
 もう一つの特徴は、観測波長に拘らないことです。普通、可視光なら可視光、電波なら電波という具合に、一人の研究者が行う観測波長帯は1種類です。しかし、宇宙にある天体はガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波とあらゆる波長帯で電磁波を放射しています。天体を正しく理解するには、どの波長帯の情報も重要なので、全波長帯で研究する方針をとっています。そのため、学生・大学院生の研究テーマも多彩になってきています。

 もう一つ私が心がけていることがあります。それは「パラダイムを丸ごと信じるようなことはしない」ということです。パラダイムというのはいわゆる定説ですが、人類が勝手にそう思い込んでいることがよくあります。パラダイムに縛られると、自由な発想で研究を展開することが途端にできなくなります。本当の答えは宇宙だけが知っている。私たちはその声(電磁波の情報)に真摯に耳を傾けるのが一番よいのではないでしょうか。

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写真:ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プロジェクトである「宇宙進化サーベイ(COSMOSプロジェクト)」で明らかにした、宇宙の暗黒物質の3次元マップ(奥行きは80億光年。拡がりは、80億光年のところで2.4億光年四方に相当)。

研究の魅力

研究というものは、大変不思議なものです。やればやるほど、面白いことがわかるのですが、わかった以上に難しい問題が新たに出てくるからです。「わかった!」という喜びと、「うーむ、わからない…」という苦しみが交互にやってくるようなものです。  「わかった!」という瞬間は、いわゆるサイエンティフィック・ハイと呼ばれる現象で、これを一度味わうと病みつきになるようです。私たちもこの高揚感を味わうために、日夜研究を続けているのだと思います。研究の魅力というよりは、研究の魔力かもしれません。

block_28129_01_m写真:COSMOSプロジェクトで発見された125億光年彼方の生れたての銀河。(左)ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された若い星の分布、(右)すばる望遠鏡で撮影された電離ガスの分布。

研究の展望

 深宇宙探査というのは、終わりのないゲームのようなものです。その時代その時代で、最高レベルの深宇宙探査を行い、成果を出す。そして、次世代の深宇宙探査につなげていく。常に、そういう気持ちで今後も新たな研究を展開したいと思います。もちろん、パラダイムに縛られることなく。

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写真:すばる望遠鏡で撮影された合体しつつあるアンテナ銀河。クローズアップした部分にはそれまで知られていなかった合体の痕跡が見える。

この研究を志望する方へ

 研究は好奇心・集中力・継続力の合わせ技です。宇宙に関心を持ち、面白い研究対象が見つかったらしめたものです。じっくり腰を据えて考えてみてください。「チャンスは準備された心に舞い降りる」(ルイ・パスツール)
千里の道も一歩からです。頑張りましょう。