新たな発想に基づく免疫遺伝子療法と再生医療でがんに迫る

 block_19062_01_mこれほどまでに医学が進歩しても、完治できない疾患が沢山あります。多くの疾患では、その発症機構すらまだ分かっていないのが現状です。難病で悩んでおられる患者さんを病気から救ってあげたい。この願いは、医学研究に携わるすべての研究者の共通した目標です。  がんは難病の代表的疾患で、日本人の死亡原因の第1位を占めています。がんに対する研究は日々進歩していますが、一部のがんを除いて、その治療法は未だに確立されていません。  私たちの研究グループは、「免疫」、「遺伝子」、「再生」の3つのキーワードで、がんに対する新規治療法の開発を行っています。これまでの基礎研究がやっと実を結び、患者さんを対象に、研究成果を臨床応用することが始まろうとしています。

研究の特色

 現在のがん治療は、抗がん剤、放射線、手術といったものが主体です。私たちの研究は、このような従来の治療法とは全く異なった概念に基づく治療法を開発しようとする点が特色です。  私たちの研究室では、がん細胞のみを特異的に認識して殺傷する細胞傷害性T細胞(CTL)クローンの樹立に成功しました。この技術は、世界トップレベルにあると評価されています。CTLはT細胞レセプター(TCR)というもので、がん細胞と正常細胞を見分けます。そこで、がん特異的CTLからTCR遺伝子をクローニングし、その遺伝子導入による新たながん免疫遺伝子治療を開発しました。さらに、このTCR遺伝子を造血幹細胞に導入するという全く新たな発想に基づく再生医療開発も行っています。

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図1 がん細胞を特異的に殺傷する細胞傷害性T細胞

研究の魅力

 研究に大切な事は、柔軟でユニークな発想力です。「新規性」と「独自性」は、インパクトのある研究成果が得られるために必須の要素だと思っています。それまで世界で誰も思いつかなかったアイデアと自分が得意とする実験技術や独自の材料を駆使して、世界が注目する研究成果が得られ、そしてその成果が難病の治療成績向上に結び付けることができれば、これほど嬉しい事はないと思います。共同研究者たちと、熱いディスカッションを通して、研究の夢とロマンを語り合うことも魅力の一つです。

研究の展望

 これまでに、がん細胞を特異的に排除できる良質なTCR遺伝子をクローニングし、人体に投与できるTCR遺伝子発現ベクターを構築することができました。国内外の他大学や企業との共同体制も確立しました。現在、治験(治療法の製品化を目指した患者さんを対象とした研究)開始に向けて手続きを進めているところです。愛媛大学で、世界が注目するがんに対する免疫遺伝子治療が数年以内には開始される予定です。

 私たちのもう一つの研究テーマの柱は、マウスの体内でヒトの免疫系を再構築するというものです。つまり、ヒトの細胞や組織を持ったマウスを作ることです。この「ヒト化マウス」を用いた再生医療の基礎研究成果も得られつつあります。最近、ヒトの造血幹細胞に遺伝子を導入して、マウス体内で特定の機能を持ったヒト細胞を分化させることにも世界で初めて成功しました。この成果も臨床応用に結びつける計画です。

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図2 がん特異的細胞傷害性T細胞の移入でマウスに移植したヒト肺がん細胞が消失した。(左:治療前 右:治療後)

 

図3 マウスの体内でヒトのリンパ球(緑色と赤色に染色された細胞)が分化増殖する。

この研究を志望する方へ

 医学部で学ぶことは、現在の最先端の医学知識を身に付けることです。そして名医とは、“その時点での”最も優れた医療(標準的治療)を確実に実践できる医師の事です。しかし、それだけでは現代医療で完治できない疾患は永遠に治せません。現在の医学がこれだけ進歩したのは、新発見を追求した先人の絶えまぬ努力のお陰だと思います。これから医学を志す若い人には、標準的治療を実践できることは勿論、難病の更なる治療成績向上に貢献できる研究者にもなっていただきたいと期待しています。愛媛大学はそのことを実践できる大学です。

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