X線で宇宙を探る
※掲載内容は執筆当時のものです。
ホットな宇宙の解明
銀河の中には、活動銀河核と呼ばれる、中心に非常に明るく輝く核をもつものがあります。核の明るさは、銀河によって異なりますが、銀河の形を作っている星々の光の総和を超えているものも存在しています。この中心核から放射される膨大なエネルギーは強大なブラックホール（太陽の100万倍から1億倍の質量をもつ）に物質が降着するときに解放される重力エネルギーを源にしていると考えられています。
私たちの研究室では、この強大ブラックホールがどのように誕生し、成長してきたのかを解き明かそうとしています。近年では、巨大ブラックホールとそれをもつ銀河がお互いに影響を及ぼしながら成長してきたと考えられており、銀河形成とも関連した研究テーマになっています。この研究では、巨大ブラックホールが存在している環境、すなわち、巨大ブラックホールを含む活動銀河核の構造を明らかにする必要があります。私たちが研究で使用しているX線は、ブラックホール近傍から放射されており、ブラックホールそのものの大きさや周辺の構造を知るのに適した光です。私たちは、観測で得られたX線スペクトルと計算機シミュレーション等との結果を比較することで銀河核の構造を明らかにしています。
完成した望遠鏡を前に(つくば宇宙センターで)
宇宙からのX線を観測するには、宇宙からのX線を検出する装置が必要になります。私たちの研究室ではX線で宇宙を観測するための望遠鏡（X線望遠鏡）の開発を行っています。特に2015年度打ち上げ予定の次期X線天文衛星ASTRO-H搭載用硬X線望遠鏡では、チームリーダとしての開発・製作に関わってきました。多くの方との共同開発により、硬X線望遠鏡は完成し、打ち上げを待っています。
研究の特色
（X線観測）
私たちの研究の特色はX線を使って宇宙を観測することにあります。「X線？何それ？難しそう。」と言われそうですが、X線は私たちの目で見える光と同じ電磁波です。目で見える光は、赤色から青色になるにしたがい、波長が短く（約半分）なります。X線は、その延長線上にあり、目で見える光のおよそ1/1000の波長をもつ光です。そのエネルギーは目で見える光のおよそ1000倍あり、高温の場所から放射されます。宇宙からのX線を観測することで、100万度を超えるような宇宙の中でも高温な（活動的な）場所を観測することが可能になります。私の研究室では、X線を使ってブラックホール（特に銀河中心の巨大ブラックホール）周辺の高温領域を観測し、ブラックホール周辺の構造や周辺に与える影響、ブラックホールが作る時空構造についての研究を行っています。
（飛翔体を用いた観測）
宇宙からのX線は地球大気に吸収され、地上に到達しません。このため、X線を観測するには地球大気圏外に出る必要があります。大気圏外へ行くにはロケットなどの飛翔体に、観測装置を搭載する必要があり、これらは打ち上げの振動や音響に耐え、かつ、宇宙での過酷な温度環境、放射線環境等に耐える必要があります。飛翔体に搭載可能な最先端の装置類は、多くの方の技術と知恵を結集して開発することになります。
研究の魅力
私たちは自然を観察し多くのことを学び、身の回りの現象を理解してきました。しかし、私たちが知らない現象や理解できていない現象は多くあります。私が研究対象としている宇宙も同じです。
私たちは、自分のもてる知識を使って、宇宙に向き合います。そして、宇宙で生じている現象を理解できたとき、また、新しい発見があったとき、どれほど些細なことであっても大きな喜びを感じます。
また、研究を進めるともっと詳しく観測したくなります。その時に必要になるのが、精度の良い観測装置です。高精度な観測機器は私たちに新たな姿を見せてくれます。自分たちの観測装置で宇宙を解明する。これほど魅力的なことはありません。
研究の展望
ASTRO-H (C) JAXA
ASTRO-H衛星は、優れた観測装置を搭載しており、これまでに誰も見たことが無い宇宙の姿を見せてくれることでしょう。すでに、ASTRO-H衛星打ち上げ後に備えて多くの準備が始まっています。来年の今頃は最初の結果をお見せできると思います。
また、宇宙を精密に観測するには、視力の良い大きな目（望遠鏡）が必要になります。私たちは炭素繊維強化プラスチック（CFRP）を使った新しい望遠鏡の開発を進めております。愛媛大学にはCFRPに関する研究者が多くおり、非常によい環境です。是非、愛媛発の新しい成果が出せるようにしたいと思います。
この研究を志望する方へ
研究は、道を切り開いて行く作業に似ています。辛抱強く、地道な努力が必要になります。また、道の指針を与えるためや道を切り開くための、道具や感性も必要になります。学校での学びは必ず役に立ちます。今のうちに、いろんな道具や感性を身につけておいてください。