生物学分野の研究では、野外調査を必要とする場合があり、この実習では、様々な環境に生育する生物の採取、観察、調査等を通して「野外調査を体験するとともに実際の生物をよく観察すること」を目的としています。また、この実体験を通して、自然界における多様な生物の生活に対する理解を深めます。

授業内容

※広報課の職員が実際に受講しました。

松山市野外活動センター(レインボーハイランド)で行われたこの授業の取材に向かった私を出迎えたのは、TA(Teaching Assistant)の学生と、その傍らにいた大きなアオダイショウでした。私も幼い頃は昆虫少年で、セミやトンボを捕まえて飼育しており、カブトムシなどの甲虫類も大好きでした。取材の担当が決まった時にはどんな昆虫たちに会えるのかと楽しみにしていましたが、最初に姿を見せてくれたのはまさかのヘビ。予想外の歓迎に驚かされ、とてもインパクトのある幕開けとなりました。

この授業では、野外で昆虫などの生物を採集し、観察や比較を行います。近縁種の生物を数多く採集して比較し、その体の構造や特徴を調べることで、昆虫がどのような進化の歴史をたどってきたのかを探ることができます。また、採集した生物を研究に活用するための標本作製やサンプル作製の技術についても学びます。そのためにも多くの種類の昆虫を採集しなければなりません。座学だけではなく、実際に生物が生きている環境に触れながら進化や分類について理解を深められることが、この授業の大きな魅力と感じました。

福井先生から授業の概要について話を聞いていたその時でした。

「あ、オニヤンマが下りてきていますよ」

先生が指を指した瞬間、学生たちは一斉に駆け出しました。私は突然の出来事に驚いてしまい、残念ながらその様子を撮影することができませんでした。しばらくして、再び先生の話を聞いていると、

「イシガケチョウが来ました!」

今度も学生たちが再び昆虫を追いかけていきます。次こそは!と私も駆け出し、夢中で昆虫を追う学生の姿を撮影することができました。目当ての昆虫を見つけると素早く反応し、一目散に駆け出す彼らを見て、その姿からは、教室の中ではなかなか感じられないフィールドワークならではの熱気をひしひしと感じました。

授業の最後には、湿った土壌と落ち葉を採取し、「トビムシ」の採集を行いました。トビムシは数ミリほどの小さな生物ですが、土壌中で有機物の分解を助ける重要な役割を担っています。目立たない存在ではあるものの、森林や土壌の生態系を支える「分解者」の一人です。学生たちは落ち葉ごと土壌を採取し、紙袋へ丁寧に入れていました。採集した生物に余計なストレスを与えないよう、生息していた環境をできるだけ保ったまま大学に持ち帰り、生きた状態で観察するためです。

一見するとただの落ち葉や土に見えるものの、その中には数多くの小さな生物が暮らしており、生態系を支えています。学生たちはそうした「見えない世界」を自らの手で採集し、大学でさらに詳しく観察します。

今回の取材を通して印象的だったのは、学生たちの観察力と行動力でした。好きな昆虫を追いかけるだけでなく、その背後にある進化や生態についても学んでいます。教室で学ぶ知識と、実際に自然の中で生物を観察する経験、その両方が結びつくことで、より深い学びにつながっていることを実感しました。豊かな自然の中で行われた今回の実習は、学生たちにとっても、自然界における多様な生物の生活を体感できる貴重な機会となっていました。

教員からのコメント

昆虫は知られているだけでも100万種を超え、種数においては全動物種の7割を占める巨大な生物グループです。さらに個体数においても突出しており、地球上に生きる人間全員に昆虫を公平に配分したら、一人当たり億単位の個体数をもらえるという計算になります。ですから、ほとんどの人にとって、人生の中で最も頻繁に出会う動物は昆虫であると言えます。

この授業では、野外での採集、標本作成、分類を通して、昆虫を見分けることができるようになることを目指しています。100万種もある昆虫種すべてを覚えることはほとんど不可能ですが、この100万種は全て「目(もく)」と呼ばれる30前後の分類階級に分けることができます。昆虫目には例えばトンボ目、チョウ目などがあります。このような大まかな分類であれば、主要なものは労せずして覚えられます。さらに講義では、これら30の目がどのような進化を経て多様化に至ったかということを説明します。講義で得られた知識を前提として、昆虫の形態から進化をイメージできるようになることは、本授業の到達目標の一つです。

こうした体験は一見何の役にも立たない趣味的なもののように感じられますが、昆虫に囲まれて生活する私たちにとって、それを見る目が変わるということは人生に大きな変化をもたらします。例えばゴキブリ一匹を見たときに感じることも大きく変わります。これまで気持ち悪いとしか感じていなかったその形態に、進化的な意味があることがわかるからです。「二本の短い尾は先祖から引き継がれた後方の触角」、「発達した前胸背板はゴキブリ目の固有派生形質」、などの知識が記憶から引き出されることにより好奇心が刺激され、闇雲な恐怖は和らいでいきます。昆虫はこうした「体系的に学んだことによる人生の変化」を日常で体感できる素晴らしい題材です。こうして得られた体系的な知識は失われにくく、自身を取り巻く世界を長い間楽しいものに変えてくれます。学問にはどの分野にもこうした側面があると感じています。昆虫の観察を通して、学ぶことの楽しさ、大学生時代のかけがえのなさが少しでも伝わっていれば幸いです。

受講学生からのコメント

理工学研究科理工学専攻 博士前期課程1年 中川 莞大さん

私はもともと昆虫が好きで、幼い頃から昆虫採集をしたり図鑑を見たりして育ちました。そのような背景もあり、生物学野外実習は大学に入学してからとても楽しみにしていた授業の一つでした。この実習で昆虫の分類や体の構造、標本作成の方法などについて学び、それまでは漠然と好きだった昆虫の「知らなかったこと」や「新たな魅力」に気付くことができました。アブラゼミはよく見ると美しい翅脈をもっていますし、カミキリムシはかっこいい顔をしています。よく似た見た目でも細かい構造が異なっていたり、毒を持つ種に擬態したり、、、フィールドで実際に生きている姿の昆虫を捕まえて観察することで造詣が深まり、「もっと昆虫のことを知りたい!」と思うようになりました。世の中には虫が苦手な人や害があると思っている人がたくさんいます。そのような人こそ、この実習を通して昆虫の面白さを知ってほしいです。

最後に

写真の中に隠れているクロアゲハを探してみよう。クリックすると答えが分かります。