愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之助教、桑山靖弘助教(現東京大学)、土屋旬准教授、土屋卓久教授の研究グループ(西,土屋旬、土屋卓久は東工大ELSI兼務)は、量子力学に基づく数値シミュレーションと超高圧発生装置のレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験により、超高圧下で安定な新しい水酸化鉄の存在を明らかにしました。
地球表層の7割は海に覆われていますが、地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍とも見積もられています。そのため、水は地球の表層だけでなく地球の内部でも重要な成分の1つであり、地球の進化に大きな影響を及ぼしていると考えられています。地球表層に存在する水は岩石と反応して含水鉱物を作ります。この含水鉱物はプレートの沈み込みにより、水を地球深部のマントル(深さ30-2900キロメートル)へ運ぶことが知られています。しかしながら、その水輸送の担い手となる水酸化鉄(含水鉱物の一種)は、深さ1900キロメートルに対応する80万気圧で脱水分解し、それ以上の深さに水を運ぶことはできないと考えられていました。
本研究グループは、まず、量子力学に基づく第一原理計算と呼ばれる理論計算をスーパーコンピュータ「京」などで行い、80万気圧付近で水酸化鉄が分解するのではなく、パイライト型と呼ばれる結晶構造に変化することを予測しました。次に、放射光施設SPring-8において、超高圧発生装置を用いて、実際に水酸化鉄に地球マントル深部に相当する高圧力をかけ、理論予測された結晶構造変化とその構造中の水素の存在を実証しました。
本研究結果は、水酸化鉄は地球マントル深部で分解・脱水するという従来の学説を覆す発見であり、いまだに解明されていない地球深部における水の役割と循環を明らかにする新たな知見となると期待されます。今回実証した新しい構造の水酸化鉄は、マントルと中心核の境界の高圧力下でも安定に存在する可能性が強く、地球深部における水の大循環やマントル-核境界でのマントル上昇流(プルーム)の発生、また地球中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質構成や運動に大きな影響を及ぼすと考えられます。
なお、この研究成果は、冊子体のnature誌での掲載に先立ち、7月4日にオンラインで公表されています。
発表論文
Masayuki Nishi, Yasuhiro Kuwayama, Jun Tsuchiya, and Taku Tsuchiya, The pyrite-type high-pressure from of FeOOH, Nature, doi:1038/nature22823, 2017.
参考HP
<地球深部ダイナミクス研究センター>