先端研究院(PIAS)沿岸環境科学研究センター(CMES)化学汚染・毒性解析部門の特別研究員および学生4名が、令和8年6月23日(火)から6月26日(金)にかけて長崎県で開催された「第5回 環境化学物質合同大会(第34回環境化学討論会)」において行った口頭およびポスター発表が評価され、大会で優れた発表をおこなった若手研究者に授与される「優秀発表賞」を受賞しました。
受賞者と発表演題の詳細は以下のとおりです。
優秀発表賞(Springer Nature Award)
Dave Arthur Robledoさん(日本学術振興会外国人特別研究員)
環境毒性学研究室(岩田久人教授)に所属するRobledoさんは、「Evolutionary Fine-Tuning of ERα: Molecular Insights into Differential Sensitivity Across 21 Mammal Species(エストロゲン受容体αの進化的な微調整:哺乳類21種における感受性差を規定する分子的知見)」というテーマでポスター発表をおこないました。
本研究は、環境汚染物質が野生動物の生態に与える影響を評価するため、動物実験に依存しない「新規アプローチ法(NAMs)」の高度化を目指したものです。最先端の計算科学的手法(in silicoモデル)および分子動力学シミュレーションを駆使し、21種の哺乳類におけるエストロゲン受容体α(ERα)の立体構造と、様々な化学物質に対する感受性の違いを網羅的に解析しました。その結果、受容体内の特定のアミノ酸変異が、動物種間における化学物質の結合親和性や感受性の「差」にどのように関わっているのかを分子レベルで解明することに成功しました。
この成果は、野生動物における化学物質のシグナル撹乱影響や、多様な種における環境リスク評価を予測・高度化する上で極めて重要な知見であり、環境化学・毒性学の発展に大きく貢献する発表として高く評価されました。

優秀発表賞(Presentation Award)
木上舜太さん(大学院理工学研究科博士前期課程2年生)
木上さんの発表演題は、「大阪湾の魚類に蓄積するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤および残留性有機汚染物質レベルの種間比較と生物濃縮性の評価」で沿岸環境科学研究センターの国末達也教授の指導のもと取り組んだ研究成果の発表でした。
木上さんの研究では、2023~2024年に大阪湾で漁獲された7種の魚類を対象に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)および残留性有機汚染物質(POPs)の蓄積レベルを調査し、種間差と生物濃縮性を明らかにしました。なかでも大型魚であるスズキでBUVSs濃度は高値を示し、とくにUV-Pが特異的に検出されることを見出しました。さらに餌生物の分析から、UV-Pは他のBUVSsやPOPsよりも高い生物濃縮性を示すことが明らとかなり、従来の脂溶性だけでは説明できないスズキに対する特異な曝露経路の存在を示唆した点が評価され受賞に至りました。


優秀発表賞(Royal Society of Chemistry)
山本愛依さん(大学院理工学研究科博士前期課程2年生)
山本さんの発表演題は、「ゼブラフィッシュ胚を用いたPFOA及び代替物質 (HFPO-TA, HFPO-TeA) の甲状腺ホルモン受容体活性評価と神経伝達影響解析」で、沿岸環境科学研究センターの野見山桂准教授、田上瑠美准教授の指導の下で取り組んだ研究成果の発表です。
山本さんの研究では、これまでPFOA及び代替物質であるHFPO-TA、HFPO-TeAを対象に発生期における甲状腺ホルモン攪乱影響を評価し、代替物質であるHFPO-TeAがPFOAよりも強く甲状腺ホルモン恒常性を攪乱する可能性を示しました。観察された毒性影響が化学物質の甲状腺ホルモン受容体に対する活性影響を介したものであるかを明らかにするため、TR CALUXを用いたTRβ活性評価を実施しました。その結果、すべての化学物質はTRβ活性を示さず、これまでに観察された甲状腺ホルモン攪乱影響は受容体を介したものではない可能性が明らかとなりました。また、ゼブラフィッシュ胚にHFPO-TeAを曝露し、胚中神経伝達物質濃度をLC-MS/MSで分析しました。その結果、抑制性神経伝達物質であるGABAに有意な変動は観察されず、GABAを介した甲状腺ホルモン攪乱影響も認められませんでした。また、主要な神経伝達物質であるDopamine、Serotoninに有意な影響は認められず、代謝物に有意な変動が観察され、HFPO-TeAが神経伝達物質代謝酵素に影響する可能性が示唆されました。本研究では、未だ明らかとなっていないPFOA代替物質であるHFPO-TeAの受容体活性評価や神経伝達への影響を明らかにした点が評価され受賞に至りました。


優秀発表賞(Wellington Laboratories賞)
高取水月さん(大学院理工学研究科博士前期課程1年生)
高取さんの発表演題は、「タンチョウヅル肝ミクロソーム画分を用いたin vitro薬物代謝試験によるアゾール系抗真菌薬の代謝能および代謝酵素の評価」で、沿岸環境科学研究センターの田上瑠美准教授の指導の下で取り組んだ研究成果です。本研究は、帯広畜産大学の久保田彰教授、釧路市動物園の吉野智生様、飯間裕子様との共同研究により実施したものであり、関係者の皆様のご協力に深く感謝申し上げます。
本研究は、事故により死亡したタンチョウから採取した肝臓を用いて調製した肝ミクロソーム画分を用いて、アゾール系抗真菌薬であるボリコナゾール(VRCZ)の代謝能および関与する代謝酵素をin vitro で評価しました。その結果、VRCZは主に N-oxide体および Hydroxy体へ肝代謝されることが明らかとなりました。さらに、反応速度論解析により Vmax および Km を推定した結果、N-oxide体が主要代謝物であり、Hydroxy体はマイナー代謝物であることが示されました。また、in vitro–in vivo extrapolation(IVIVE)により推定した肝クリアランス(CLH)は、既報の鳥類データと比較して中間的な値を示し、特にアカオノスリに近似していました。加えて、CYP阻害試験の結果から、N-oxide体の生成には CYP2C および CYP3A サブファミリーが関与し、Hydroxy体の生成には主に CYP3A サブファミリーが関与することが示唆されました。本研究は、in vivo 試験の実施が困難な希少野生動物であるタンチョウを対象として、肝ミクロソームを用いた in vitro 試験により VRCZ の代謝特性および関与酵素を初めて明らかにした点が高く評価され、今回の受賞に至りました。本成果は、野生動物における医薬品の適正使用や薬物動態の理解に資する基礎的知見を提供するものであり、希少鳥類の獣医療や保全医学への応用が期待されます。


優秀発表賞(Springer Nature Award)
安原芽生さん(大学院理工学研究科博士前期課程1年生)
安原さんの発表演題は、「瀬戸内海沿岸域の二枚貝に蓄積するPFASレベルの時空間トレンドと生物濃縮性の評価」で、沿岸環境科学研究センターの国末達也教授と田上瑠美准教授の指導の下で取り組んだ研究成果の発表です。
安原さんの研究は、2017年および2024年に瀬戸内海沿岸で採取した二枚貝の軟組織を対象に、有機フッ素化合物(PFAS)の時空間トレンドと生物濃縮性を明らかにしたものです。2017年と2024年のPFASデータを比較した結果、一部の採取地点で新興PFASである8:2 fluorotelomer sulfonic acid(8:2 FTS)およびHexafluoropropylene oxide tetramer acid(HFPO-TeA)が2024年の試料からのみ検出され、近年の新興PFASの流入が示唆されました。さらに、海水から二枚貝への生物濃縮係数(BCF)を算出し、一部の代替・新興PFASは従来型PFASと同等あるいはそれ以上の生物蓄積性を示すことを明らかにしました。本研究では、瀬戸内海沿岸におけるPFAS汚染の経年変化や地域ごとのPFASプロファイルの特徴を明らかにするとともに、新興PFASの流入実態および生物蓄積性を示した点が高く評価され、受賞に至りました。


<沿岸環境科学研究センター>
