免疫療法の開発研究と新たな取り組み

研究の概要

 白血病を含めた難治性がんを免疫力で治す取り組みは、この5年ほどで急速に進展してきています。遺伝子を改変する技術の進歩に伴い、がん細胞に結合する抗体タンパクを遺伝子改変して作製されるキメラ抗原受容体導入T細胞 (CAR-T細胞)など、抗体を創薬基盤とした新規治療法が次々と臨床の現場に取り入れられ、目覚ましい治療成果を挙げているからです。このような治療法を免疫療法と呼びますが、今では手術、抗がん剤治療、放射線治療に続いて、第4のがん治療法として幅広く認知されるようになり、国内でも新規薬剤として認可されています。一方で、免疫療法の臨床試験の結果から、副作用が少なく、かつ治療効果の高い次世代型免疫療法の開発研究が求められるようになっています。我々の研究グループは、免疫細胞の中でも特に重要な働きを担うT細胞に着目して、これまでに白血病を含めた難治性血液がんを対象としたT細胞療法の開発研究ならびに臨床試験を行ってきました。さらに、遺伝子改変技術をうまく応用することで、T細胞を利用して安全にがん細胞のみを攻撃するための改変タンパクの作製にも成功しています。

研究の特色

 免疫療法で用いられる改変型抗体タンパクの多くは、一本鎖抗体 (scFv: single chain fragment variable)と呼ばれるタンパク質を組み込んで人工的に合成されています。その理由は、scFvはがん細胞表面に発現している標的タンパク質に結合する、すなわち、がん細胞と正常細胞とを見分ける役割を担うためです。従って、T細胞をがん細胞のみに仕向けてうまく攻撃させるためには、良質なscFvを自由に作製する新たな技術が必要です。しかし、これまでの技術においては、作製したscFvが免疫療法に適っているか、1つ1つ時間をかけて検証する必要がありました。そこで我々の研究グループは、scFv作製と抗体改変技術の精度をさらに高めるため、scFv作製からT細胞を用いた改変型抗体タンパクの機能評価までを1つのステップに纏めて、免疫療法に適したscFvを効率よくスクリーニングする画期的な改変抗体作製技術を開発しました。さらに、これまでベッドサイドで患者様に盛んに使用されてきた抗体製剤に簡単なひと工夫を施すことによって、臨床現場において簡便に治療効果を高めた新規抗体製剤を作製し使用するための新たな創薬技術の開発にも成功しています。

研究の魅力

 白血病を含めた血液がんの治療薬開発は、難治性がんに対する創薬開発領域におけるトップランナーとして、ものすごい勢いで進展しています。それは、血液がん細胞は、患者様から採血を行うだけで比較的簡単に採取ができ、すぐに研究に用いることも可能なためです。これまでに、分子標的医薬品や抗体医薬品、また我々の研究グループも含めて開発を進めている免疫療法製剤も、どれも最初は血液がんに対する新規治療法として生み出され、他のがん腫に応用されていきました。このように、血液がん領域での創薬開発は、得られた知見と成果が実臨床へと直結しやすいため、最先端の研究成果を患者様に素早く還元できることが最大の魅力であると思います。

セルソーター

フローサイトメーター

免疫療法の研究においては、フローサイトメーターを用いて免疫細胞(T細胞)の形質を解析することが重要となります。また、必要に応じて、セルソーターを用いて特定の免疫細胞を集めて回収し、その遺伝子配列の解析を行う場合もあります。どちらの機器も、我々の研究を推進するためには必要不可欠です。愛媛大学学術支援センター(ADRES)ではどちらの機器も管理が行き届いているため、いつも高性能な状態で使用させて頂いています。

今後の展望

 我々の研究グループが開発したscFv作製技術、ならびに抗体改変技術は、免疫療法を加速度的に進展させる可能性を秘めた次世代型技術として、愛媛大学独自の知財として特許出願を完了しています。現在、社会連携推進機構 (四国TLO) と連携を取りながらプロジェクトを推進していて、愛媛大学から発信する白血病を含めた血液がんに対する免疫療法の次世代創薬開発を目指しています。我々の研究成果を一刻も早く血液がん患者様に還元していくことが、研究者であり医師である我々の使命であると感じています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 どの研究領域もそうであるとは思いますが、がんに対する免疫療法は、これまで先人の先生方の偉大な研究成果を基盤として、今まさに注目される治療法となりました。一つ一つの研究の積み重ねが、血液がんに苦しむ患者様に向けた治療薬の開発に繋がることは間違いありません。そして、臨床現場から得られる知見は、再び研究室へと戻り、新たな創薬開発へと繋がっていきます。ともに熱意を持って次世代の新たな治療に繋がるエビデンスを創出していきましょう。血液内科と免疫療法の開発研究は、その魅力に溢れた領域だと思います。