ブラックホールが引き起こす高エネルギー現象の解明

研究の概要

私の主な研究対象は、「ブラックホールX線連星」と呼ばれる天体です。ブラックホールX線連星は、太陽のような普通の星と、太陽の数倍から十倍程度の質量を持つブラックホールが、お互いの周囲をまわり合っている連星系です。

 

 

ブラックホールの強い重力によって、相手の星からガスが流れ込むと、ブラックホールの周囲に「降着円盤」と呼ばれる、高速回転するガス円盤が形成されます。降着円盤の内側は、ガス同士のまさつによって加熱され、1千万度にも達しており、強いX線を出します。この X線を観測することで、ブラックホールの極端に強い重力場での物質の状態や運動の様子を詳しく調べたり、ブラックホールそのものの情報(質量や、自転をしているかどうかなどの情報)を得たりすることができます。

ブラックホールX線連星 (©NASA)

また、ブラックホールへ落ち込むガスの一部が、光の速さ (秒速およそ30万km) 近くまで加速され、細く絞られた「ジェット」となって噴き出すことがあります。強力なジェットがどのように生み出されるのか、そのメカニズムはいまだによくわかっていません。これを理解することが、私の目標の一つです。

研究の特色

様々な衛星・望遠鏡を駆使して進める研究

  X線は地球の大気に吸収されてしまうため、人工衛星などを打ち上げて観測を行います。米国のSwift衛星やNuSTAR 衛星などを用いて観測したり、日本のX線衛星すざくなどで過去に得られたデータを利用したりして研究を進めています。
一方、ブラックホールX線連星のジェットは、主に電波や赤外線・可視光を放ちます。そこで、国内外の光・赤外線望遠鏡やアタカマ大型ミリ波・サブミリ波干渉計 (ALMA) なども用いて観測を行なっています。

激変するブラックホールをX線で日々監視

  これまでに見つかっているブラックホールX線連星の多くは、普段は非常に暗く、ある日突然明るくなります。X線で見ると、数日ほどで1万倍以上も明るさが変化することがあります。この変化にともなって、強力なジェットも噴き出します。
この劇的な変化を逃さずにとらえるため、私は、全天X線監視装置MAXI (マキシ) のミッションチームに参加しています。MAXIは、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の外側にとりつけられた装置で、宇宙ステーションがおよそ90分で地球のまわりを一周するたびに、空のほぼ全域をX線で見ることができます。これを用いて、ブラックホールX線連星を常に監視し、急に明るくなったときには、ただちに世界中の研究者に情報を知らせています。

国際宇宙ステーションと全天X線監視装置 MAXI (© NASA)

研究の魅力

研究の魅力は、何と言っても、ブラックホールという謎に満ちた宇宙のモンスターを自らの手で調べられることだと思います。ブラックホールのまわりでは、私たちの身のまわりでは見られない、極端な現象が起こります。それらを最先端の装置を駆使して観測し、そのしくみを解き明かそうとする取り組みは、ロマンに満ちあふれていると思います。衛星や望遠鏡のプロジェクトに参加していると、新しい装置を使ってどんなデータを手に入れられるのかを想像するとワクワクします。観測が始まって、実際に新しい結果が得られたり、未知の天体や現象が見えたりしたときには、とても大きな感動があります。

今後の展望

私は現在、X線天文衛星ひとみの後継機として、2021年度に打ち上げ予定のXRISM (クリズム: X線撮像分光衛星) のプロジェクトに参加しています。XRISM 衛星には、新技術の観測装置が搭載される予定です。これを使うと、ブラックホールの周囲のガスの状態や運動の様子が、今までと桁違いに詳しく見えてくると期待されます。私は、MAXIやXRISMチームのメンバーや、国内外のブラックホール研究者と協力して、ブラックホールがX線で明るく輝く瞬間を MAXI でとらえ、ただちにXRISM 衛星や光・赤外線・電波望遠鏡で同時に観測することで、ブラックホール周囲で起こる高エネルギー現象のしくみを解明したいと考えています。

XRISM 衛星 (© JAXA)

この研究を志望する方へのメッセージ

天文学に限らず、研究というのは、誰も知らないことを明らかにしていく作業です。学校の試験とは違って、決まった答えや解き方が用意されているわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、失敗したり、期待どおりの結果が得られなかったりすることもたくさんあります。それでもへこたれず、あきらめずに挑み続ける忍耐力と、問題を解決するためにはどうすれば良いか、論理的に考える力が必要です。高校や大学の授業で学ぶ知識はもちろん大事ですが、ただ教えられたことだけを身につけるのではなく、いろいろなことに疑問や好奇心を持ち、自分で主体的に、じっくり考えるくせをつけておくと良いと思います。
また、天文衛星や望遠鏡のプロジェクトの多くは、様々な国の研究者や技術者と協力しながら進められています。日本語だけでなく英語によるコミュニケーション能力や協調性を身につけておくことが求められます。