食品の機能性解明研究の新展開を目指して

菅原先生 食と健康は切っても切れない関係にあります。私たちが日頃口にしている食品には、栄養機能、嗜好性機能、生体調節機能の三つの機能があります。動物細胞工学教育分野では、食品の生体調節機能に着目し、私たちが健康で長生きできること、すなわち健康長寿に貢献できるような機能性食品の開発を目指しています。
 日常の食生活に十分に気を配り、栄養バランスの取れた食生活を送ることが基本です。そこに、生体調節機能を持った成分を多く含む食品や機能性食品、あるいはサプリメント等をプラスすることによって、生活習慣病を未然に防いだり、花粉症などのアレルギー症状を緩和することができます。すなわち、食品素材に含まれる保健機能を解明してその効果を体感できる機能性食品を開発することだけでなく、どういう食生活をすれば健康に暮らしていけるかといった情報発信も重要な課題だと考えています。
 我々は愛媛県を代表する農産物である柑橘類に含まれる種々の成分の免疫促進効果、アレルギー症状緩和効果、メタボリックシンドローム予防効果などの様々な保健機能を明らかにし、それを機能性食品素材として開発することを目指しています。柑橘といっても果肉ではなく、普段は食べない果皮に注目しています。その理由は二つあります。一つは、柑橘の機能性成分は果肉よりも果皮に多く含まれているからです。もう一つの理由は、ミカンジュースを搾ったあと、果皮は残渣として処理され、有効活用があまり進んでいないからです。せっかくの良い素材を無駄にすることはない、と考え、研究に着手しました。研究の結果、温州ミカンの果皮に多く含まれるβクリプトキサンチンは、腸管免疫系を活性化する効果があることが確認されました。
 機能性食品の開発はもちろんですが、愛媛県のもう一つの重要な産業である養殖漁業にこの研究成果を応用することを検討しました。その結果、温州ミカン果皮の乾燥粉末を養殖魚の餌に数%加えることによって、感染症に対する抵抗性が上昇することが養殖現場で実証され、現在、「ひめ柑育ち」というブランド魚を展開しています(図1)。

(図1)温州ミカン果皮を活用した機能性飼料の開発とブランド化

(図1)温州ミカン果皮を活用した機能性飼料の開発とブランド化

 また、温州ミカン果皮に多く含まれるフラボノイドの一種であるノビレチンには花粉症の症状を緩和する効果があるとともに、牛乳の成分であるβラクトグロブリンと一緒に摂取することによって、その効果が高まることを明らかにしました。図2は、ヨーグルトと温州ミカン果皮をスギ花粉症モデルマウスに摂取させることによって花粉症の症状(くしゃみの回数)が相乗的に低減されたことを示しています。この研究成果をもとに、地域の食品企業と連携した商品の開発がすでに始まっています。

(図2)スギ花粉症モデルマウスに対する症状緩和効果

(図2)スギ花粉症モデルマウスに対する症状緩和効果

研究の特色

食品の保健機能の解析は、培養細胞実験での機能性素材の検索から始まり(写真1)、ある程度、機能性や作用機構が明らかになったところで、食べても効果があるのかという点について、マウス等を使った動物実験で評価します。マウスに食品成分を経口投与し、生体内における食品成分の保健機能を明らかにします(写真2)。そして、機能性食品の開発で最も重要なポイントは、ヒトが食べても効果を実感できるかという点であり、この点に関しては、医学部と連携して研究を進めています。

 食品の研究は非常に広範囲にわたります。ヒトレベルでの食品の機能性評価、地域の食習慣や食文化と健康との関わり合いの解明、さらには現在注目されている介護食の開発など、農学部だけでは対応できない課題が数多くあります。したがって、食の研究は農学部だけでなく、医学部をはじめとして、文系学部などとも連携した学際研究体制が必要です。そこで、食に関する学際研究組織として、平成25年4月1日に農学部附属食品健康科学研究センターを設立しました。

研究の魅力

 農学部の研究においては、生命現象の解明という基礎研究も重要ですが、それだけでは十分ではなく、解明された生命現象を社会の役に立つ技術としてどの様に応用していくか、という研究成果の社会への還元がとても重要な課題です。私の研究室では、生産者や食品企業と連携し、得られた基礎研究の成果をもとに、機能性食品などの実際の商品を開発することを目標としており、基礎研究だけでなく開発研究も含めて行っています。研究成果を学術論文や学会発表など発表することは当然ですが、研究成果をもとにして生まれた商品を企業と協力して世に出していくことも、非常に重要な課題だと考えています。

研究の展望

農学部附属食品健康科学研究センター

農学部附属食品健康科学研究センター

 健康志向の高まりに伴って、機能性食品への期待はますます大きくなっており、効果を実感できる機能性食品が求められています。この期待に応えるため、我々は医農連携による機能性食品開発の組織基盤として、農学部附属食品健康科学研究センターを設立しました。今後、学際連携を発展させ、愛媛大学発の機能性食品開発を目指して研究を進めるとともに、地域産業の活性化にも貢献したいと考えています。

 

 

 

この研究を志望する方へ

 研究とは、実験で得られた結果を理論的に積み上げていき、新しい事実を発見する作業です。普段から物事を理論的に考える癖を付けることが良い研究者になる一歩ではないかと考えています。また、食品の研究は広範囲にわたるので、様々なことに興味を持ち、見識を深めるとともに、いろいろな研究者と協力できる協調性も重要です。
 食品の機能性解明研究は、基礎研究の結果を機能性食品として、自分の研究成果を目で見える形で世界に発信できる、やり甲斐と充実感を感じることができる研究だと思います。