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最先端研究紹介 infinity

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2014.01.29
「光が誘起する磁性・伝導性の研究で注目」
大学院理工学研究科 / 教授 内藤 俊雄 / 専門:固体物理化学

※記載内容は掲載当時のものです。

低次元物質に基づく伝導性・磁性材料開発とその機構解明

“人工の金属”は小粒でピリリと辛い

この研究の学会での発表風景や国際会議での受賞(フォトムービー)

内藤先生(研究室見学に来た高校生A君との会話)
A君:先生の研究室では、どんな研究をしているんですか?
内藤:ここでは人工的に作った金属物質や半導体の磁性(磁石の性質)と伝導性(電気の流れやすさ)の研究を行っています。
A君:人工的に作った金属?
内藤:実物をお見せしましょう。
A君:わーっ、こんな小さいんですか!
内藤:自然界に存在する金属には、鉄や銅、アルミニウムなどいろいろなものがあります。それに対し、我々が化学合成で作っている金属の材料は炭素や水素、窒素や硫黄などからなる、有機物と言われる物質が主です。有機物はむしろ伝導性や磁性材料には不向きな物質とされてきました。

ここで紹介する試料(人工の金属)

ここで紹介する試料(人工の金属)

A君:それならなぜ、わざわざ有機物を使うんですか?
内藤:有機物でできた製品は金属製品に比べて、はるかにやわらかくて、軽い。ものによっては、小さく折りたたむこともできる。従って携帯電話やタブレットなど、電子機器を持ち運ぶ時代に向いているからです。
A君:電子機器に使えるんですか?
内藤:将来的な応用の可能性として、電子機器を構成している各種電子部品に使えると良いなと思っています。
A君:今の部品では駄目なんですか?
内藤:人工の金属と言っても、しょせん有機物なので、本当は電気を流しにくいんです。同じ電圧をかけた場合、“本物の金属”の1000分の1から100万分の一ぐらいの電流しか流れません。ですので、消費電力もその分小さくて済むんです。極端なたとえ話ですが、もし世の中で使うすべての電気製品を100%有機物で作れたら、原子力発電所はいらなくなるでしょう。
A君:それはすごい!時代の要請にあっていますね。
内藤:でも有機物にこだわる理由はそれだけではないんです。自然界に存在する金属や半導体にはない機能を出せるからです。それは光に応答して磁性と伝導性が同時に発現したり、消滅したりするという機能です。いわば光が当たると金属になったり、金属でなくなったりするわけです。
A君:そうすると、どういったメリットがあるんですか?
内藤:磁性と伝導性はパソコンや携帯電話などのハイテク製品の機能を支える二大物性です。これらが日常生活の温度や圧力といった普通の環境で共存し、光で制御できる物質が見つかれば、画期的に情報処理が早くなったり、記憶容量が倍増するといった効果が期待されます。うまく行けば、これまでできなかったことができるようになるかもしれません。こうした物質は(以下に紹介するもの以外は)まだ世の中 にありません。本研究では、そうした物質の開発を行っています。いくつか例をお見せしましょう。
(1)MV[Ni(dmit)2]2
 この物質は光を当てなければ電気を全く通さず(絶縁体)、磁性もありません(非磁性)。ところが紫外線を当てている間だけ、金属のようによく電気を流し(図1)、同時に弱い磁石としての性質(常磁性)も発揮します。光を消せば、元の非磁性絶縁体に戻り、光照射の有無によってこうした機能の発現と消失を瞬時に何度も繰り返せます。また、紫外線照射中の“金属のような状態”は、天然に産する銅や銀といった本物の金属とも異なり、半導体的な性質も併せ持っているため、半導体デバイス(デバイスとは、ハイテク電子機器に使われている部品)としての利用法が考えられます。
 例えば、この物質の単結晶に適当な形状で光を遮るようにして紫外線を当てれば、光が当たった部分だけが伝導性を持ち、残りの部分は絶縁体のままになります。こうした絶縁体、金属、半導体など伝導性の異なる部分が原子、分子レベルで貼り合わさったものが半導体デバイスです。従って光を遮る形状を変えれば、紫外線照射によりいろいろな半導体デバイスとして機能して、しかも光を消せば元に戻ることが期待されます。つまり、「初期化できるデバイス材料」です。

図2-1

(2)PPTM[Ni(dmit)2]2

図3-1

 この物質は当てる光の波長によって、伝導性や磁性の応答が異なります。逆に言うと、この物質の伝導性や磁性を測れば、光が当たっているかどうか、また当たっている光の波長域が分かります。これは一種のスマートセンサー、つまり当たっている光の色を見分けられる材料となりえます。例えば運転手が居眠り運転をしていても、前の車のブレーキランプ(赤い光)を検出して、自動でブレーキがかかる仕組みなどに応用できるかもしれません。

図5-1

研究の特色

光は魔法の加熱手段

 新物質や新物性を創出する手段として、これまでは温度や圧力を変える、磁場や電場をかける、物質そのものを変えるといった考え方が常識でした。これはいずれも我々が日常生活を送っている常温(絶対温度にして300 K(ケルビン)程度)の世界での物性を念頭に置いています。そこに新たな視点として、継続的に光を当てるという方法を提案しました。これは可視~紫外光のエネルギーが数万Kであることを考えると、他の方法では実現できない極端に高い温度にした場合の物性を利用することになります。しかも光は火や電気による加熱と違い、物質の中の一部の電子だけを一瞬で“加熱”して、残りの部分はほとんど常温のままに保ちます。だから物質が燃えたり分解したりしないのです。料理だけを温め、皿はあまり熱くならない電子レンジと同じような加熱方法です。光照射中の特殊な状態を使えば、普通の温度の物質内で超高温に置かれた電子が伝導性や磁性といった機能を発揮するので、これまで不可能と思われていた電子機能や未知の現象が見つかるかもしれません。

研究の魅力

未知物質が相手の筋書きのないドラマ

 新物質の設計、合成から始まり、自分で作った物質が予想通りの性質を示すか実際にその物性を測定して、なぜそうなったかを考えるというところまで、物理と化学にまたがる様々な学問分野を包括しているところです。いろいろな専門知識や実験技術が必要になりますが、多様な持ち駒を駆使して新たな現象や機能を設計し、実現していく楽しさを一度体験してしまうと、病み付きになります。

研究の展望

新しい機能が新しい時代を呼ぶ

 磁性と伝導性が連動して、しかも特定の波長の光照射に応答して瞬時に発現するという物質は自然界に存在しません。
まずは我々の発見した“人工的な金属”の多様性を広げ、その物性発現や光応答機構を明らかにして、将来の実用化に備えてそのラインナップを充実させることが、重要だと考えています。長所・短所も含めて基礎的データを蓄積し、それをもとに実用化するのに必要な課題を一つ一つ解決していくことになるでしょう。
 石器時代や鉄器時代といった名称を見ても、新しい材料や新たな機能の発見は新たな文明につながっています。歴史に残る発見を目指して、今後も学生とともに邁進していきたいです。

この研究を志望する方へ

本気、元気、根気 

 他の研究とも共通すると思いますが、以下の条件がそろえば、誰でも活躍できる可能性があるテーマです。
「粘り強さ」
「真剣さ」
「あくなき興味」
「難しいことから逃げない勇気」
「考えることが好き、実験が好き」
「失敗を恐れず、面倒くさがらず、試してみる積極性」
「期待と異なる結果が出た時に、それを単なる失敗と見捨てず、詳しく記録を取り、何が起こったのかを考える執念」
 我こそはと思う人は、是非心身ともに鍛えて、好奇心に磨きをかけて、我々の研究グループに入ってきてください。

研究室のホームページはこちら

 当研究室に所属する学部の4年生は、卒業研究として上述およびその関連するテーマに取り組んでいます。その際、学内外の先生方のご協力を得て、他の研究室の設備も使わせていただいています。
 すべて自分で合成した試料を使って各種の実験を行い、その結果をやはり自分で行った理論計算などと照らし合わせて、解釈を考えています。

 

試料となる物質を合成しているところ

試料となる物質を合成しているところ

試料の中に分子がどう並んでいるかを調べる実験(この結果を図にしたのが,前述の分子構造やその配列の図です)

試料の中に分子がどう並んでいるかを調べる実験(この結果を図にしたのが,前述の分子構造やその配列の図です)

電気伝導性を測定するため,顕微鏡で見ながら試料にリード線を貼っているところ(左)と,実際に測定しているところ(右)

電気伝導性を測定するため,顕微鏡で見ながら試料にリード線を貼っているところ(左)と,実際に測定しているところ(右)

 どの学生も最初はこうした研究の知識も経験も全くなく、今行っているすべての実験や理論が得意なわけでもありませんでした。でも毎日頑張っているうちに自然と身についていき、徐々に専門家の卵になって行きます。テーマ遂行に必要とされる知識や能力が幅広いということは、誰もが自分の持っている能力を生かせる場面があるということです。

紫外線のレーザー光を当てるための装置 (左側は光を当てながら電気抵抗を測るための温度計付サンプル台:光の向きに合わせて回転できるように作られている)

紫外線のレーザー光を当てるための装置
(左側は光を当てながら電気抵抗を測るための温度計付サンプル台:光の向きに合わせて回転できるように作られている)