癌治療や放射性セシウム除染に用いる機能材料の開発

青野先生 原子の直径の10〜1000倍程度(1〜100ナノメートル)に相当するナノメートルオーダーの微粒子では、通常の固体材料よりも結晶径が小さく表面積が大きいため、従来の材料と比べて特異的性能をもつ材料が数多くあります。
私たちは、交流磁場中に置くと発熱する磁性ナノ微粒子材料の開発を行っており、これは癌を体内で加熱する治療に用いることができます。図1のような癌の抗体付きのリポソームに磁性材料と薬を包埋し、血管に注入すると選択的に癌腫瘍に集まってきます。そして、交流磁場を外部からかけると磁性材料が発熱し、選択的に癌患部のみ焼灼治療を行なうことができます。この焼灼により免疫機能が働き自然治癒するという究極の治療法に使う材料です。

 

また、この磁性ナノ微粒子材料をゼオライトという物質に分散化させた複合材料(磁化ゼオライト)を開発しました。ゼオライトにはセシウムイオンを選択的に吸着する能力があるため、福島の水田に散布し、放射性セシウムを十分吸着させた後、磁石により磁化ゼオライトを回収し放射性セシウムの除染に用いることができます。図2は開発した磁化ゼオライトが磁石に付いている写真です。その磁化ゼオライトの微細構造を透過型電子顕微鏡で調べてみると(図3)、ゼオライト粒子の中に磁性ナノ微粒子のマグネタイトが分散していることがわかりました。これによりゼオライト(セシウム吸着)とマグネタイト(磁石)が一体となった新しい複合材料を作製できていることを示しています。

 

研究の特色

私たちの研究室は「環境・エネルギー材料工学研究室」という名称であり、癌治療、放射性セシウム除染、触媒材料、燃料電池、ガスセンサーといった応用に用いる機能性材料を設計・開発しています。目的に応じて作製法を考え、工夫し、試行錯誤を繰り返して優れた機能材料を創っていき、その結果、世界で最も交流磁場中で発熱する材料、世界で最も導電率の高い酸化物リチウムイオン伝導体などを開発してきました。また、農学部の逸見彰男教授らと共同で行なっている除染に用いる磁化ゼオライトにしても、福島の水田での現地試験を行なうところまで進んでいます。
さらには、このような機能性ナノ材料や複合材料の新しい合成法についても研究を行っております。図4は1つの分子に2個以上の金属イオンを含む多核錯体という分子を合成し、低温で熱分解することにより複合酸化物を得たものです。触媒や電極材料などに用いる均質な材料を簡単に作ることができ、この場合約100ナノメートルの微粒子が得られました。

研究の魅力

子供のときに船や飛行機などのプラモデルをよく作りました。これは「部品」や「作り方」も決まっていて、「完成図」もあり、ワクワクしながら作っていき、最後に完成したときの達成感は忘れられません。ものづくりの魅力はまさにこれと同じです。ただし、研究における「部品」「作り方」は最初から決まっていません。「完成図」もはっきりしていないのです。
上で述べた研究で言うならば「磁石にくっつくゼオライト」が完成図でした。農学部の教授がゼオライトの専門家で、こちらはナノ磁性材料を研究しており、技術が融合し作ることができました。このように、私どもの研究の多くは医学部、理学部、農学部などの異分野との共同研究から始まっており、完成図の「船」しか考えていなかったものが、異分野との接触で「水上飛行機」や「潜水艦」などに発想が転換するのも大変面白いと思います。

研究の展望

私どもが開発した交流磁場中で発熱する材料は、学会でも認知され始め、サンプルの提供や学会での講演などを依頼されるようになりました。また、除染に用いる磁化ゼオライトについても、福島の除染に向けて着々とプロジェクトが進んできております。これは、材料の開発により成し得たことであり、今後も新しい材料創りを楽しみたいと思います。

この研究を志望する方へ

私の所属は大学院理工学研究科ですが、学部では工学部の機能材料工学科になります。材料の研究は大変面白いと思います。携帯電話がコンパクトになり様々な機能を持つのは材料の発展の賜物と言っても過言ではありません。「材料を制するものは技術を制する」という言葉は誰の言葉かは分かりませんが好きな言葉です。
私たちの研究室の活動内容についてさらに詳しく知りたい方は以下のサイトを御覧ください。

http://www.energy-materials.jp/