墓地にも法律があるんです

 s-DSC00335私の専門は、民法・法社会学であり、愛媛大学では不法行為法とフィールドワークを担当しています。
 昨年の3月に成文堂から14冊目の愛媛大学法学会叢書『墓地法の研究』を刊行しました。これは、全く最先端研究といえるものではありませんが、大学教員の中には一風変わった研究をしている者もいるということを知ってもらうためにも今回の依頼を引き受けました。つまり、この記事は最先端研究の紹介ではなく、超が付く稀少研究の紹介です。

研究の特色

 sIMG_0109「ご専門は何ですか」と聞かれたときに、「墓地法です」と答えると、ほとんどの場合「墓地にも法律があるんですか」と聞き返されます。実は、あるんです。それが「墓地、埋葬等に関する法律」(今後は「墓埋法」と略称します)という法律です。この法律は、明治17年に制定された「墓地埋葬取締規則」を、昭和23年に改正したものですが、当時はまだ一部地域を除いて土葬が一般的だったので、主として公衆衛生の立場から墓地について規定したものです。ところが、その後の日本経済の飛躍的な発展は、地方から大都市へという人口の大移動を引き起こすとともに、伝統的な墓地の在り方やその権利関係にも様々な法律問題を引き起こしました。
 これに対して、墓埋法はそもそも衛生法規であるために、墓地の権利関係に解決方法を与えるものではありませんでした。結局は墓地問題の解決方法として民事裁判が利用されましたが、その際には、民法の各種規定や、あるいは各地の墓地慣習法によって判決が言い渡されました。
 つまり、墓地問題を法律的に解決するためには、全国各地の墓地慣習法を調査し、その実態を明らかにすると共に、時代の変化に対応した法理論を構築しなければなりません。

研究の魅力

 何といっても墓地法研究の魅力は、文献や判例を調べることも必要ですが、それにも増して重要なことは、実際に現地を訪問し聞き取り調査を行なうとともに、過去の資料を調べたりすることにあります。
 私がこれまでに墓地調査で訪問した都道府県は、南は沖縄県から北は北海道まで、27都道府県に及んでいます。
 写真①は、沖縄県の観光地・万座毛(まんざもう)の入り口にある墓地群ですが、ここで写真を撮る観光客はまずいません。ちなみに、海の対岸に見えるホテルは、沖縄でも有名なANAインターコンチネンタル満座ビーチリゾートです。この墓の形は、沖縄独特の波風墓といわれるもので、一つ一つの墓地はこれでも小さい方で、大きなものは普通の民家より大きな墓もあります。
 写真②は、最近注目を集めている岩手県石巻市の樹木葬墓地です。樹木葬とは、墓石の代わりに樹木を植えるもので、ここでは墓地開設による自然破壊を防ぐとともに、里山を守っていくこともその目的としています。

写真①:万座毛の墓地群

写真①:万座毛の墓地群

写真②:樹木葬墓地

写真②:樹木葬墓地

 また、平成20年にはスウェーデンのストックホルム市とデンマークのコペンハーゲン市の墓地を調査する機会に恵まれました。
 写真③と④は、世界遺産にも登録されているストックホルムの「森の墓地(Skogskyrkogarden)」です。市中央駅から電車で約10分という便利な場所にも関わらず、自然そのものの状態を保っており、市民の憩いの場としても機能しています。
 写真⑤は、コペンハーゲンのアシステンス墓地(Assisten Kirkegard)で、偶然見つけた童話作家アンデルセン(HANS CHRISTIAN ANDERUSEN)の墓地です。墓地内には案内表示もあり、多くの観光客が訪れているとのことでした

写真③:森の墓地1

写真③:森の墓地1

写真④:森の墓地2

写真④:森の墓地2

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写真⑤:アンデルセンの墓地

 

研究の展望

 最近では、墓地を必要としない撒骨葬(焼骨を細かく砕いて海や山に撒くというもので、墓埋法は想定していなかった)が一部ではありますが実施されるようになり、これに対する法的対応が必要であると考えています。この問題には、アメリカやヨーロッパの法制度が参考になります。
 また、わが国では、毎年3万人を超す孤独死が報告されており、この内の縁故者のいない者の墓地問題への対応も必要です。さらに、今後30年間にわたって毎年死者数が増加することが予想されていますが、墓地需要の増加への対応も考えなくてはなりません。
 このように墓地法問題は山積み状態ですが、民法だけではなく憲法や行政法の立場からも研究する必要があります。

この研究を志望する方へ

 公共コース開講科目 フィールドワーク
 総合政策学科公共コースには、2年生以降の開講科目にフィールドワークがあります。この中で、私が墓地問題に関するフィールドワークを担当しており、受講者全員参加のもと、2泊3日の現地調査を行っています。

写真⑥:墓石読み取り調査

写真⑥:墓石読み取り調査

 ちなみにこれまでの調査地区は、愛媛県内では岩城島(上島町)、津和地島(松山市)、城川町(西予市)、一本松町(愛南町)の4ヶ所、県外では、香川県善通寺市、高知県高知市の2ヶ所、合計6ヶ所で調査を行いました。
 写真⑥は、津和地島墓地調査の際に行った墓石読み取り調査です。9月にしては熱い日差しの中、受講生が場所を分担して墓石に書かれた文字を写し取りました。ここから、津和地島で「○○家代々之墓」が造られるようになったのは、昭和になってからということがわかりました。
 墓地法に少しでも興味を持ったみなさんは、是非公共コースのフィールドワークで一緒に勉強してみましょう。