裸麦の硝子質粒発生要因とその改善

研究の概要

 裸麦は大麦の一種であり、愛媛県では作付面積と収穫量が30年以上に日本一の重要品目です。穀皮は外れやすいため、加工適性に優れています。代表的な加工品は味噌で瀬戸内および北部九州地域の伝統的な麦味噌文化を育んでいます。他には焼酎、パンなどに加工されています。また、裸麦は不溶性食物繊維であるβ-グルカンを精米の約20倍多く含んでいることから生活習慣病への予防が期待されており、健康志向の高まりや高齢化社会において健康食品や病院食をはじめ用途が拡大しています。このような需要の高まりの中、栽培現場では裸麦の高収量高品質の栽培技術の確立が求められています。特に品質評価項目の一つである硝子率は値が高いと搗精に時間を要し、コスト増となります。また、硝子質程度の均一程度にばらつきがあると、搗精が不均一になり、精麦した麦の加工にも影響を及ぼすこととなります。そこで、硝子質粒発生要因の解明と硝子質粒発生抑制に向けた栽培方法の確立に取り組んでいます。

研究の特色

 硝子率に関するこれまでの研究では、原麦のタンパク質含量や子実重比といった成分解析と追肥や刈り取り時期といった栽培時期との関係性を明らかにした報告が多いです。しかし、これらの解析では収量・品質調査対象の試料から一部を抜き取って行っているため出穂後以降の生育過程を考慮した硝子率粒発生の要因解明には至っていません。また、裸麦は個体から3~6本の穂が出て、1本の穂に約70粒が着生します。出穂のタイミングは個体内の穂で異なるとともに開花のタイミングも粒によって異なります。したがって、個体内における子実の生育過程は均一ではないのです。これらのことから総合的に判断して、裸麦の硝子質粒の発生要因を原麦個々の成長過程ならびに出穂期の原麦の成長と栽培管理や気象条件を含めた生育環境との相互作用に分けられることから、解析対象の場を穂内の原麦着生位置に着目した場合(原麦1粒レベル)と栽培圃場(群落レベル)に分けて取り組んでいます。採取した試料を用いて、形態学的手法による原麦胚乳細胞へのデンプンやタンパク質の蓄積パターン、生理生態学的手法による同化産物や窒素の原麦への輸送特性およびこれらと気象要因との関係について解析しています。

研究の魅力

 生育している裸麦をいかによく観察しているかが実験の成否に強く関係します。実験材料は圃場で栽培し、播種から収穫までテーマを担当する学生が主体となり管理します。したがって、栽培期間の11月中旬から5月下旬までは実験材料を中心とした生活を送ることになります。病害虫の発生や実験処理による生育の差などへの気づきが重要です。そのためには頻繁に実験圃場に足を運び、細やかに観察することが不可欠です。また、屋外での実験ですので、気象条件により生育が左右されることもあります。そのため、1年分の成果ではなく、2~3年分の成果をまとめて、総合的に判断する力と、粘り強く取り組むことが求められますが、時間を要する分、成果が出た時の喜びはひとしおです。また、研究成果を試験研究機関、農業の普及に関する方々や生産者に提供し、生産や品質所向上に向けて情報を共有することで、お役に立てることが何よりの魅力です。

今後の展望

 原麦へのデンプンとタンパク質の集積特性を明らかにすることで、細胞レベルでの硝子質粒発生の要因を明らかにすることが期待されます。また、1個体内での穂間の出穂期の違いや1穂内の原麦の開花時期の違いと原麦の成長や硝子質粒発生程度を明らかにすることで、硝子質粒発生の抑制に向けた栽培技術を提案する予定です。また、昨今の気象変動に伴い、栽培時期の気象条件も変化していることから、将来に向けた裸麦の栽培指針を検討することも望まれます。

この研究を志望する方へのメッセージ

 作物が畑で栽培されている農作物の生産や品質に関する諸現象に対して科学的知見を見出し、その知見に基づいて生産性や品質の改善に取り組むことは、学術と生産現場を強く結びつける取り組みです。一緒に圃場で汗をかきながら愛媛県の主力農産物の生産振興に貢献できる種を見つけてみませんか?