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最先端研究紹介 infinity

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2021.09.30
日本の俳句や文学、文化の魅力
教育学部 / 准教授 青木 亮人 / 専門:近現代俳句、文学

※記載内容は掲載当時のものです。

俳句の読解や愛媛ゆかりの文学調査、各国文化との比較を通じて

研究の概要

 私の専門は日本近現代俳句や文学の研究です。愛媛ゆかりの文学や文化の特色について、また海外から見た日本文化や文学、ポップカルチャーの特徴や魅力についても研究しています。

 私たちが当然のように信じる常識や価値観、作品の読み方に一つ一つ立ち止まり、その作品は何を伝えようとしているかを考え直すことでもあります。それは私たちを規定し、方向付ける「日本らしさ」や「日本語」とは何かといったことを考え直すきっかけでもあります。例えば、画像1は画家の小村雪岱が泉鏡花の小説本の装幀にあしらった絵を元に版画にしたものですが、この画の日本らしい情感を認識し、説明するのは意外に難しいと思います。こういったことを丁寧に分析し、考察するのが私の研究になります。

※俳句を扱った授業や研究の詳細については、「みらいぶ+(ぷらす)」のウェブサイトもご参照ください。

研究の特色

 歴史的な視野で捉え、各国文化と比較し、意外な組み合わせから見える作品の特徴を探る、といった点が特色になるでしょうか。

 近現代俳句でいえば、松山は正岡子規の郷里であり、近代俳句革新を担った偉人と敬愛されています。しかし、子規は俳句のどの点を革新し、何を否定しようとしたのかは、個々の作品の良し悪しや自分の好みだけでは判断が難しい。これらを捉えるには、子規が生きた時代の価値観を復元したり、またいかなる俳句観がどの時期に常識となり、どのような俳句観が消滅したのかといった歴史的な視野に立つ必要があります。

 同時に、各国文化と比較すると日本の美意識の独特さに気づくことがあります。例えば、日本の「散りぎわ」「うつろい」等の感性は、他国では顕著ではありません。アメリカの大学で授業を行った際、「落花」の風情を考察したところ、散った後の花に美しさを見出す感性そのものに驚かれたことがありました。

 あるいはギリシャのレストランで蛸の料理を頼んだ際、画像2の料理が供された時に少し驚いたことがあります。日本と異なる蛸の料理に接することで、日本の「蛸」に関連する料理や文学が独特かもしれないと感じ、比較文化の考察のきっかけになりました。

 かような日本文化や文学の感性や情感を各国文化と比較しつつ、そして日本画とアニメ、俳句とマンガ、小説と映画といった意外な組み合わせから読み解くのも研究の特色といえるでしょう。

研究の魅力

 他国文化を知ることで日本文化や俳句の特質が分かることが多く、各国の方と互いに文化について理解を深めあうのは魅力的です。画像3はワルシャワ大学の日本学の行事にオンラインで参加した際のリハーサル画像です。講義後の現地学生の感想等は大いに勉強になりました。

 また、愛媛は東・中・南予地方で文化が異なり、各地域を多くの文学者や文化人が作品に描き、数多の実業家や学者、政治家等を輩出しています。それらを調べ、実際にその土地を訪れ、その土地を描いた作品とともに歩くのは魅力的です。画像4は大学近くにある公園に建つ俳人の中村 草田男(なかむら くさたお)の句碑ですが、実際に訪れるとその場所に建てられた意味や雰囲気を体感することができ、活字だけでは分からないことが多いと改めて実感しました。その点、愛媛は文学や文化のフィールドワークとして多様な楽しみ方ができる土地と感じます。

 

 それは日本各地や海外でも同様で、例えば画像5は台湾の九份近くの金瓜石鉱山に遺る日本建築の住居です(右側)。この鉱山は日本統治時代に大規模に開発され、多くの日本人が画像のような宿舎に住んでいました。こういうところで俳句や短歌が楽しまれることが多く、海外在住者がどのように短詩文学に親しみ、日々の糧としたかを調べることで、海外に住む日本人が日本語俳句に求めたものを学び、彼らがかつて住んだ現地に訪れるのも魅力の一つです。

 

今後の展望

 現在、愛媛や東京の出版社から学術書や評論書、エッセイ集その他のスタイルの単著を複数まとめており、数年で大小合わせて10冊強の刊行を予定しています。多くの方々に日本の俳句や文学の特徴や、愛媛ゆかりの文学や文化の魅力をお伝えできればと思います。

 また、アメリカやドイツ、フランス、ポーランド、イタリア、中国、台湾等の大学の講義で日本の俳句や文化について授業や講演、またアメリカやフランス、ドイツの日本人会や俳句会での講演を継続的に行っており、今後も各国大学や俳句会の方々とともに多様な文化理解や日本の俳句や文化の特長を考察していければと思います。

この研究を志望する方へのメッセージ

 かつて古代ローマのカエサルは、「多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と述べました。私たちは目の前のものを見ることはできますが、見えていないものが多々あるかもしれません。しかも、それを意識せずに自分の見たものや考えたことが常識であり、世間であり、「日本らしさ」と思いこむ場合が少なくありません。

 日本文学研究や各国文化との比較、また自国文化の理解を深めるほど、そのことに意識的になるチャンスがあります。それは自国文化や他国文化を、そして自分自身をよりきめ細かく理解し、ひいては他者の存在や多様な価値観があることを理解し、包容しうる認識を育むことができるでしょう。