鉱物を分析して地球の歴史を読み解こう

研究の概要

愛媛県伯方島での野外調査

私たちの住む地球は主に岩石からできています。そして岩石は鉱物の集合体です。鉱物が持つたくさんの情報を読み解くことで、地球で起きた数十億年前の出来事や地球内部の情報、遠い小惑星の成り立ちなど多くのことを知ることができます。では、そもそも“鉱物”とはなんでしょうか?鉱物の定義の一つに天然の固体物質であることが挙げられますが、続いて重要なのが、結晶構造を持ち、一定の化学組成で表すことができる物質であるという点です。例えば、“水晶”はよく知られていますが、正式な鉱物名は石英と言います。石英はSiO2という化学式で表すことができ、珪素と酸素の原子が三次元的に規則正しく配列した結晶構造を持ちます。現在ではこのような定義に基づく鉱物が5,800種ほど確認されています。温度や圧力、化学環境によって安定な結晶構造、鉱物種は変わってきますので、多様な鉱物種の存在は分化の進んだ地球ならではの特徴と言えるでしょう。現在でも毎年約100種もの新鉱物が報告されています。生物に比べたら種類が少ないように思えるかもしれませんが、同じ鉱物種であっても産地が異なれば大きさやかたち、色までも異なってきますので多様性には事欠きません。

 

私が調べている電気石は様々な地質から産出する一般的な造岩鉱物です。電気石はホウ素を含む珪酸塩鉱物ですが、さらに鉄やマグネシウム、アルミニウム、リチウムなど様々な元素を取り込むことができ、30種類以上もの鉱物種からなるグループです。岩石中でよく目にする電気石は黒色柱状の鉄電気石という種ですが、粗粒な鉱物の集合からなるペグマタイトという岩石中では、ピンク色や水色、緑色など様々な色の電気石が産出することがあります。実はこの肉眼的な色の変化は化学組成の変化と対応していて、岩体の周辺部から中心部に向かって黒色、藍色、水色、ピンク色と電気石の色が変化し、それと対応するように電気石中の鉄の含有量が減少していることがわかりました。電気石中の鉄を置換するようにリチウムとアルミニウムが増加していき、岩体中心部から産出したピンク色の電気石になると鉄を全く含んでいません。この電気石の化学組成の変化は、マグマの中で電気石が結晶化した際の周囲のメルトの化学組成の変化を反映しています。ペグマタイト岩体の周辺部で、はじめに鉄に富む鉱物が結晶化していくことで、しだいに残ったメルトは鉄に枯渇していき、結果として中心部ではリチウムなどの一般的な鉱物には入りにくい元素が濃集するのです。このように鉱物は地下内部ではるか昔に起こった現象をも記録しているのです。地球の成り立ちや構造について鉱物を通して読み解くのが私の研究です。鉱物の結晶学的な性質を調べることや、地下内部での元素の挙動を追い求めることは、材料工学、資源工学的にも重要な情報となります。

 

研究の特色

地球科学の分野では地球を対象としていれば、その研究手法は、物理学、化学、生物学などそれぞれが得意な分野を活かして研究を行うことができます。また、46億年の長い地質スケールや、原子配列という目に見えないナノスケールの世界から惑星規模のスケールまで、様々なスケールでモノを連続的に見ていくという視点が特徴的と言えるでしょう。特に私の研究では、透過型電子顕微鏡やX線回折実験などを通して、結晶の中の原子が織りなすナノスケールの情報を通して地球を科学しています。

 

研究の魅力

まずは鉱物という“モノ”を扱っている点です。フィールドワークを通して、図鑑で見ていた美しい鉱物の結晶などが自然に形成されている様子を観察し、自身の手で実際にふれることができます。分析をしていくと、天然のモノは私たちが想像するよりもはるかに複雑であり、同時に驚くほどに整然としていることに気づかされます。石ころ一つにしてもまだまだ謎はたくさんつまっております。

今後の展望

電気石の化学組成の特徴を紹介してきましたが、最近の研究では結晶のかたちと成因の関連性についても議論が進んできています。電気石は、花崗岩やペグマタイトのようなマグマから結晶化する際には柱状の結晶になるのですが、熱水から形成される際には繊維状の結晶になるようです。それぞれの環境下での結晶化のメカニズムと、デュモルチ石などの他のホウ珪酸塩鉱物の産状を調べることで、地殻内部でのマグマから熱水環境下まで連続的なホウ素循環について解明したいと考えています。

この研究を志望する方へのメッセージ

天然のモノを研究するうえでは、物事をよく観察することが大事になります。言葉にすると単純ですが、些細な違いに気づき、ルーペや顕微鏡を使いながら、自身の知識や経験を活かしてモノをじっくり視るということは重要なスキルです。日常の様々なことに気づき、好奇心を持ち続けることが研究への入り口だと思います。