水の流れ・代謝変化にフォーカスした1細胞生体計測法の改良と応用

研究の概要

 地球温暖化が進む今日、世界各地で高温や旱魃等の不良環境が多発し、食料生産への影響が表面化しています。国内の米生産の現場では、夏季の高温やフェーンなどの極端な気象の発生により、お米の胚乳の一部が白く濁った白未熟粒(背白米(図1左)・乳白米等)が発生し続けており、その対応が求められています。

 

 白未熟粒のような生理障害の要因解明には、組織中の症状の現れる部分の細胞で一体何が起こっているかを明らかにする必要があります。そのためには、細胞間の水の動きや細胞内で起こる代謝変化にフォーカスしたリアルタイム解析が一つの有効な方法と考えられます。しかし、そのような1細胞生体計測の手法は世界でも開発されていませんでした。私達はそのようなニーズに応えるべく、成長中の植物において、ターゲットとなる1細胞にキャピラリー管を刺し、水分状態を示す細胞の圧力(細胞膨圧)を計測した後、その細胞から採取した超微量の細胞液中の成分(代謝産物)を瞬時に分析する手法を開発しました(図2)。現在、 この方法を応用し、白未熟粒等の生産現場で起こる生理障害について、また、1細胞生体計測法の改良を主なテーマとして研究を進めています。

【図2】トマト葉の毛状突起を対象にした1細胞水分状態・代謝産物計測の様子(左)
計測する細胞にプレッシャープローブのキャピラリー管を近づけているところ(右)

研究の特色

 植物生理学の一分野に「植物水分生理学」という分野があります。植物体の9割以上を占める水の動きをとらえたり、自動車のタイヤの空気圧の数倍に匹敵する細胞の膨圧等のパラメーターを直接計測することで、植物のもつ生理機能や環境変化に対する順化の仕組みを細胞から個体レベルで明らかにする研究分野です。

 研究室では、この「植物水分生理学」をベースに、代謝産物計測を加えた1細胞生体計測の他、幾つかの手法を組み合わせながら、植物の環境応答に関する研究を行っています。白未熟粒(フェーンに伴ったリング状乳白粒発生機構、高温に伴った背白粒形成・施肥による白濁抑制機構)や、高温不稔(高温でお米が実らなくなる現象の要因解明、図1右)といった水稲高温障害研究の他、リンゴ蜜症のメカニズム(図3)等の課題にも取り組んでいます。今後、1細胞の水分状態・代謝物以外にも、タンパク質等も同時解析できるよう、方法論の改良を進めていきます。

 

研究の魅力

 私の学生時代には夢のような話だった、1細胞生体計測が今では現実になり、今度はそれを用いた研究推進という、次の目標ができました。「植物水分生理学」を軸にした現象解明は、私にはとても楽しく、また、仮説をサポートする実験結果が得られた時には達成感を感じることができます。これまでの研究活動の中で、多くの素晴らしい先生方・共同研究者との出会いがありました。研究を通して、国内外の共同研究者と繋がることで、広い視野で物事を見ることができるようになり、そのことが私のモチベーションに繋がっています。これも研究の一つの大きな魅力だと思います。

今後の展望

 今後も、細胞から個体レベルのユニークな研究を展開していきます。地球温暖化が急速に進行する今日、一農学者として、日々の糧となる農作物の安定生産に貢献したいと強く思っています。また、研究活動を通して、人材の育成にも努めていきます。今後も研究成果を発信し、愛媛をもっと面白くしたいと思っています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 私も愛媛大学出身で、本研究室の卒業生です。学部の頃、恩師に教わった「植物水分生理学」に魅せられて以降、研究者を志し、これまでずっと研究を続けてきました。皆さんは若く、多くの可能性を秘めています。とにかく、広い視野で勉強に取り組み、常に自分の可能性を信じ続けること。前向きに諦めずにいれば、何時かチャンスが来ます。そのチャンスを掴めるよう、日々の生活において、自ら考え、実行し、物事を継続することが大切と思います。