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2016.08.26
海洋マイクロプラスチックの研究
大学院理工学研究科 / 教授 日向 博文 / 専門:沿岸海洋物理学・海岸工学

※記載内容は掲載当時のものです。

マイクロプラスチックは沿岸域でどのように動いているのだろうか?

hinata 河川などを通じて海洋に流入したプラスチック(全世界で年間約500〜1300万トン)は、どのような運命をたどるのでしょうか?多くのプラスチックは、海岸への漂着、沖合への再漂流を繰り返しながら海洋表層を漂っていると思われます。生産量の多いポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)の比重は、海水の比重よりも小さいのです。ただし、生物付着などの影響でPEやPPでも海底に沈むことが最近の研究で分かってきました。
 大きなサイズのプラスチック(マクロプラスチック)は、海岸に打ち上げられると紫外線や熱で性状が徐々に劣化し、やがては海洋生物が体内に取り込めるサイズにまで壊れていきます。マイクロプラスチック(MP)です。MPは波の作用で沖合へ再漂流します。問題はMPが海洋を漂流している間に、その表面に残留性有機汚染物質(POPs)などを吸着することです。その濃度が海洋中の数10万〜100万倍にまで達することもあります。MPは汚染物質の輸送媒体なのです。MP問題は、今や世界が注目する地球環境問題となりましたが、残念ながら生態系への影響はほとんど分かっていません。
 生態系への影響を明らかにするには、MPの動態、特に海洋と生物、海岸、海底や海氷とのやり取りを詳しく調べ、その移動量を数値モデル化(コンピュータで計算できるように)することが必要です。これはとても大変な仕事です。世界中の科学者が一生懸命研究を進めていますが、まだまだ時間がかかるでしょう。さて、我々の研究室では、この中でも特に海洋と海岸とのやり取りの定量化、瀬戸内海など沿岸域における動態解明に取り組んでいます。なぜかというと、海岸がMP生成のホットスポットであること、豊かな生態系を形成する沿岸域だからこそ生態系への影響が大きいと考えたからです。

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海洋におけるマイクロプラスチック動態のイメージ

 

研究の特色

 世界中の研究者が海洋におけるMP問題に注目し始めたのは今世紀に入ってからで、多くの論文が出版されるようになったのはここ数年です。研究分野が新しいこと、これが一つの特徴です。そのために困っていることは、計測方法が確立されていないことです。例えば、海流のスピードを計測したければ流速計を、水温であれば水温計を設置すればよいのですが、MP量を計測するためのMP計はないのです。研究の出発点である定量化自体が非常に難しいのです。ここは研究者の腕の見せ所でもあります。良い面も勿論あります。調べなくてはいけないことが沢山あるので、新しい研究成果を世界に先駆けて発表できるチャンスも沢山あることです。また、これは環境問題一般にそうですが、問題を理解・解決しようとすると様々な分野の知識が必要になることです。MPの動きを理解するための物理学・数学、MPの性質を理解するための化学、生態系影響を理解するための生物学が必要になります。でも、まずは得意分野を持つ事が大事だと思います。

 

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伊予灘の海底から見つかったマイクロプラスチック(矢印)

研究の魅力

 MP問題は人間がつくり出した環境問題であり、現代社会の縮図を見ている気がします。その一方で、MPの動態を解明していくことは自然システムそのものを理解することだと考えています。MPの動態と自然現象との関係が理解できた時(今まで繋がらなかった点と点が線で結ばれた時)が一番うれしいです。投稿していた論文が受理された時の達成感も本当によいものです。最近では、自分の発表した論文をどこの国の誰がダウンロードしたか一週間単位でわかります。自分が世に出した論文を通じて世界の人々と繋がっていく、これもまた研究の大きな魅力ですね。

今後の展望

 新島(伊豆七島)や瀬戸内海で得られつつある成果を一般化、つまり世界中の沿岸海洋の理解に役立てられる様にしたいと考えています。そのために、現地観測で得られた結果を説明するための数値モデルを開発していきます。具体的には、海岸に打ち寄せる波によるMP拡散作用、沿岸域におけるMPの沈降過程や海底での振る舞い、海岸におけるMP生成のモデル化に取り組んでいきます。勿論モデル化に必要な観測も引き続きやっていきます。 

この研究を志望する方へのメッセージ

 先が見えないことに対して精一杯準備すること、失敗を恐れず全力で挑戦すること、そして、結果がどうであれその過程を楽しむことが大事です。研究手法が確立されていないこの分野では特にそうです。大抵何かしらの問題が出てきますので。全力を尽くした結果の失敗は悪くありません。そこから沢山のことを学べます。困っていたら周囲の仲間が助けてくれます。また、この分野は裾野が広いので、得意な教科を持ちつつ色々なことに興味を持って幅広く勉強してください。将来、それらの知識(要素)が繋がってネットワークとなった時、きっと面白い研究成果が生まれると思います。いつ繋がるかは分かりませんが、繋がる要素を持っていないと何も生まれないのは確かです。