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2016.11.16
血管保護から認知機能低下予防・改善に向けての新規アプローチ
大学院医学系研究科 / 教授 堀内 正嗣 / 専門:分子心血管生物・薬理学

※記載内容は掲載当時のものです。

生活習慣病としての認知症への発症・進展予防

 高齢化社会の進行ととも1に増加している認知機能障害は、QOL(Quality of Life:生活の質)を著しく障害し、介護者の負担や経済的損失も大きいことから、その予防対策や治療法の確立が社会的にも急務です。多くの疫学、臨床研究等より、高血圧、糖尿病が脳卒中等の血管障害を原因とした血管性認知症だけでなく、アミロイドベータと呼ばれるたんぱく質等の蓄積によるアルツハイマー病も含めた認知機能低下の危険因子となることが明らとなってきています。最近の研究結果より、血管性認知症とアルツハイマー病が合併している認知症が多いことも知られており、認知症を生活習慣病としてとらえようという考え方が脚光を浴びています。動脈硬化、血管の機能異常、血管老化等の血管障害がアミロイドベータの産生、蓄積を増強し、アミロイドベータの血管への沈着が血管障害を悪化させます。
 ところで、血圧上昇、心血管病発症、耐糖能異常等に作用する古典的レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害を標的とした血圧降下薬が高血圧治療に広く使われています。しかし、近年、RA系の新規構成コンポーネントが次々と発見され、古典的RA系経路に拮抗して作用するRA系保護軸として、そして、RA系保護軸が血管だけでなく神経系に対しても保護作用を示すことが注目されてきています。そこで我々の研究室では、RA系保護軸の相互活性化・調節による認知機能低下予防・改善を目指し、創薬を含めた新規アプローチを目的とした研究を進めています。

研究の特色

 古典的RA系の生理作用の中心は、アンジオテンシンIIによるアンジオテンシンIIタイプ1(AT1)受容体活性化が深く関与しています。堀内等は、新しくアンジオテンシンIIタイプ2(AT2)受容体をクローニングし、AT2受容体がAT1受容体に拮抗して作用し、血管保護、神経保護に作用する事を中心に報告してきました。脳の機能に関するAT2受容体の病態生理学的解析は世界的にも遅れていましたが、我々のグループは、遺伝子改変マウス等を用いて、AT2受容体はAT1受容体と拮抗して作用し虚血性脳血管障害に保護的に作用すること、AT2受容体刺激が認知機能維持に重要であること等を報告し、以後、AT2受容体を中心に脳内RA系の病態生理学的意義について検討を重ねてきています。最近開発された経口投与可能なAT2受容体特異的アゴニストCompound 21(C21)を用いた研究により、直接的AT2受容体刺激が心血管リモデリング、インスリン抵抗性、認知機能低下の改善等に作用すること等も、次第に明らかにしてきました。これらの研究テーマは、オランダのUnger教授のグループ等、海外の研究者との共同研究も積極的に進め、研究のグローバル化を図っています。
 我々は、AT2受容体の多機能な作用を説明するのに、AT2受容体に特異的に結合しその機能を調節する分子として、AT2受容体のC-末端に特異的に結合する新規シグナル伝達機能調節物質ATIP(AT2 Receptor Interacting Protein)をフランスのNahmias教授のグループと共同でクローニングし、癌抑制遺伝子としての作用を有するATIPが核内転写調節因子としても作用し、血管リモデリングの改善だけでなく、神経保護作用に重要な役割を担っていることを既に報告してきました(図)。現在、図に示した未同定の物質を探索中です。最近、国立循環器病センターとの共同研究により、ATIPが心不全の発症予防に関与している可能性も報告しています。RA系保護軸であるACE(angiotensin converting enzyme)2/アンジオテンシン(1-7)/Mas受容体系の研究にも既に着手し、この系が血管、脳保護に作用する事も新しく報告しています。

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 地元特産物みかんが血管保護、認知機能低下予防に作用する可能性を探る研究も進めています。温州みかんと伊予柑果汁をマウスに飲用投与し、血管保護効果を検討した結果、柑橘果汁飲用は血管リモデリングを抑制したが、温州みかんと伊予柑の間で抑制効果に若干の差がある可能性が示唆され、抗酸化作用が一部関与していることを報告しました。これらの結果は国際高血圧学会、薬理学会などで発表、論文としては国際学術誌PLoS Oneに掲載され、産経新聞(全国紙)、愛媛新聞など数社の新聞にも紹介されました。特筆すべきは本学医学部独自のシステムである“医科学研究“”中級研究員”に参加した医学部学生が中心に行った研究であり、彼女等が論文の筆頭著者でもあります。現在も新しい医学部学生が引き続き研究を行っており(写真)、柑橘果汁飲用は脳血管障害による認知機能低下を抑制することも観察しており、日本脳血管・認知症学会学術大会にて発表しました。

研究の魅力と今後の展望

 RA系古典的経路に対して、血圧調節等に拮抗して作用するRA系“Protective Arm”即ち保護軸として、“AT2受容体”“ACE2/アンジオテンシン-(1-7)/Mas受容体軸”が、新規降圧薬としての創薬対象ともなり、臨床の場においても治験が行われ脚光を浴びています。我々の研究は、認知機能低下予防、認知機能改善を効率よく改善することを目的とした独創的な研究であり、RA系の保護軸をより効果的に調節・刺激する方法を見出すことにより、新規創薬にもつながる臨床的意義のある研究です。
 ATIPは特に、転写調節因子、シグナル伝達調節物質の両面性を有し、その発現調節、機能調節、リガンド探索, ATIP結合DNA部位を特定することにより、認知症発症予防、早期診断、遺伝子治療も含めたATIPを分子標的とした独創的な研究で、新規治療開拓が期待されます。認知症だけでなく、将来的には高血圧、糖尿病さらには癌の病態解明、診断・治療の臨床医学の発展にも寄与し、新規遺伝子治療につながる期待ももたれる夢のある研究と自負しています。

この研究を志望する方へのメッセージ

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研究に励む留学生

 医学研究は基礎研究、疫学研究、臨床研究に大きく分けられますが、我々の研究室は、基礎研究と臨床研究の橋渡しとなるような研究を中心に行っています。“ヒトは血管とともに老いる“という有名な言葉がありますが、認知機能低下も血管病として捉えられると考えられてきています。血管に関する研究は多くの臓器の機能研究に重要です。
 医学の研究テーマは多岐に渡り、工学、農学、心理学などの研究分野とも密接に関係し、今後、他領域との連携がますます重要となっていくでしょう。生活習慣病による認知症だけでなく、心血管疾患に対する新規治療法、早期診断法等の開発に興味はある方の研究参加を期待しています。

この研究活動は、教員の実績ハイライトにも掲載されています。

 教員の実績ハイライトとは、教員の「教育活動」「研究活動」「社会的貢献」「管理・運営」ごとに、特色ある成果や業績を精選・抽出したもので、学内のみならず学外にも広く紹介することとしています。

平成28年度教員の実績ハイライト(PDF 644KB)

研究者プロフィール