抗がん剤生産から環境汚染の浄化まで

 block_34159_01_m石油資源の枯渇や地球温暖化などの観点から再生産可能なバイオマス(植物資源)が注目されています。サトウキビや木材からのバイオエタノール燃料の生産など植物資源の利用も進められています。しかし、未利用の植物資源はまだまだ多く、医薬品、工業原料や食品など広範囲の分野で利用できる可能性を秘めた植物資源もたくさんあります。例えば、植物は古来より漢方薬の主要な原料として用いられてきました。しかし、植物中の有効成分の含量は少なく、これらを植物から抽出できない場合や化学合成できない場合には、どんなに優れた有効成分でもこれまでは利用できませんでした。しかし、バイオテクノロジーの技術を用いれば、これらの成分を大量に作ることも可能になっています。また、キノコや植物微生物も植物資源の一つと考えられます。キノコの薬効や微生物の機能については未解明の部分も多いのですが、食用だけでなく、医薬品や環境浄化など多方面での利用が可能です。さらに、ミカン果皮や製紙スラッジなど破棄物として処理されている植物資源からも有用物質が製造可能です。  私たちの研究室では、植物資源の活用をめざして、抗がん剤の生産から環境汚染の浄化までの研究を活発に行っています。

研究の特色

植物資源の機能解明およびその有効利用について、次の研究を行っています。

1.植物細胞培養、微生物による抗がん剤などの生理活性物質の生産

 植物は抗がん剤、抗アレルギー物質、抗酸化剤など有用な生理活性を持つ物質(生理活性物質)を体内で作ります。しかし、その生産量は少ない(0.1%以下)。特に、構造が複雑で化学合成できない生理活性物質は、どんなに生理活性が優れていても、これまで生産する方法がなかったため、利用できませんでした。しかしながら、植物の細胞培養により、これらの生理活性物質を生産できる方法を見出しました。この方法を用いて、植物細胞培養により抗がん剤、血小板活性化因子の阻害剤、紫外線防御剤などの生理活性物質を生産する研究を行っています。また、細胞の固定化、バイオリアクターを用いる生理活性物質の生産についても研究しています。
 また、植物内に生息する微生物が抗がん剤、パクリタキセルやその他の有用な生理活性物質を作ることを見出しました。しかし、これらの微生物が植物に対してどのような機能を持っているのか?明らかでありません。植物と微生物の機能を明らかにしながら、有用な生理活性物質を生産する微生物の探索およびその生産について研究しています。さらに、有用な生理活性物質を微生物や酵素の変換機能を用いて生産する研究も行っています。

 

2.バイオマスからのバイオエタノールなどの有用物質の生産

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研究に使用している試料 
(左)製紙スラッジ
(右)古紙

 トウモロコシなどからバイオエタノールが生産されています。しかし、食糧との競合の問題があります。食糧と競合しないバイオマスからのバイオエタノールの生産では、バイオマスの酵素糖化で多くの糖を得るにはどの様にしたらよいのか?短期間でバイオエタノールを作るにはどうしたらよいのか?など解決しないといけない問題も残っています。我々は古紙、製紙スラッジ、ミカン果皮、竹などの食糧と競合しない廃棄系バイオマスから、酵素糖化の問題などを解決しながら、バイオエタノールなどの有用物質を生産する研究を行っています。また、微生物からバイオマス(セルロースなど)を作る研究も行っています。

3.キノコによる環境汚染の浄化

 キノコは世界中に数千種類いるといわれていますが、その機能は僅かしか解明されていません。我々は、キノコが環境汚染を浄化できる能力を持っていることを見出しました。そして、天然から環境汚染を浄化できるキノコ(分解菌)を選抜する方法を開発しました。さらに、選抜した分解菌を用いて、生物的に環境汚染を浄化する方法(バイオレメディエーション)を開発しています。この分解菌を用いる環境汚染の浄化では、分解菌の成育速度を速める方法?土壌や海洋上でどの様にして汚染を浄化するのか?などの問題を解決しながら、ダイオキシンや環境ホルモンによる環境汚染を浄化する研究や、原油による土壌汚染や海洋汚染を浄化する研究を行っています。また、選抜菌や選抜菌からの酵素を製剤化した微生物製剤や酵素製剤も作成し、様々なタイプの汚染に適応できる環境汚染浄化法も研究開発しています。さらに、選抜した分解菌は、難分解性の有色染料なども分解できるので、これらによる廃液浄化の研究も行っています。

 

研究の展望

 植物資源はまだまだ研究されていないものも多く、石油資源に取って代われる能力を秘めた資源です。これらの資源を多方面で活用することにより、我々の生活に必要な製品を製造しながら且つ地球温暖化を防ぎ、地球環境も保全できると考えています。また、植物内に僅かしか含まれていないけれども有用な生理活性を持つ物質をバイオテクノロジーにより生産し、医薬品や工業製品などとして利用できるようになると思います。また、植物内の微生物と植物との関係を明らかにすることにより、植物や微生物に物質製造工場(plant factory、fungal factory)のような機能を持たせることも可能になってくるのではないかと考えています。さらに、菌やバクテリア、植物などを用いるバイオレメディエーションによる環境汚染浄化は、地球環境保全だけでなく、我々が地球で安心して暮らすためにも、今後益々重要なことになると考えています。  将来、植物資源が石油に代わって地球の有用な資源になるだけでなく、地球環境の保全上にも大きく役立つものと考えています。

この研究を志望する方へ

 植物は優れた能力を持っています。その能力を研究開発することは地球の未来にとっても大切なことです。一緒に地球のために頑張っていきましょう。