山岳活動支援

 block_31047_01_m今日、社会のあらゆる分野で人類文明の区切りを極めつつあるのではないかと思います。その中で、様々な新しい歪みも感じられます。健康についても例外でなく、人の飽くなき欲望追求の裏で、偏った食生活、過度な快適生活、運動不足等々に留まらず適応能力等の生活生存に必要な本能や能力を失いつつあるのも現状でしょう。生活習慣病やこころの問題などが文明病とも言われる所以です。この様な状況に問題意識を持ち、あるべき方向性を考えるためには、知識だけでなく現代文明とは対極的な自然環境の中での体験を通じ、一人ひとりの自然への感性を時間をかけて育てることが欠かせないことと思います。
 私たちは一般社会人や本学OBグループの協力を得て、初心者の学生も気軽に参加できる野外活動体験を楽しんでいます。自然への理解を通じて、充足感、達成感、さらなる好奇心、仲間との気兼ねない自然な交流・・・等々、参加者のこころの中に刻まれていることでしょう。

 

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交流合宿:5月 赤石山系にアケボノツツジを訪ねて。

 山岳支援活動は1995年に重信町(現東温市)文化協会事業として立ち上げた『皿が峰自然探訪スクール』に始まります。以来、町民有志や一般参加者を募り1~2回/月の山行を続けています。そこに、個人的繋がりで愛媛大学その他の学生も参加するようになりました。1998年からは私の愛媛大学保健管理センターへの転勤に伴い、センター行事として年1回の林間交流合宿(学生と社会人の交流、2010年終了)を始め、安全に登山技術を磨くためフリークライミング(2003年)人工壁の建設にも関わりました。

 
 曾て、愛媛大学山岳部は愛媛県下に5つの山小屋を建設しましたが、老朽化で廃屋同然となっていました。山岳会(山岳部OB)の陣頭指揮のもと、私たちもこれらの再建・改修事業に参加させて貰いました。石鎚面河道愛大小屋再建(2006年)、堂が森愛大小屋再建(2008年)、皿が峰愛大小屋改修(2010年)、その後毎年数回の登山道や設備の保全事業を続け、国定あるいは県立公園内での貴重な労働機会を楽しんでいます。これらの活動は愛大教職員学生だけでなく、学外の個人・団体の労働力や資金提供のうえに実現されているもので、マスコミにも大きく採り上げられました。学生・留学生も参加し、そこで得た体験は一生涯の思い出になっていると確信しています。

 

研究の特色

 山登り等の山岳活動は、好奇心・探求心に基づく人間の基本的活動であり長い歴史があります。人それぞれの生き様を背負った冒険もあり、個人的なささやかな探求行動もあります。自然を理解することは楽しみですが、自分の身体の動きを知ることも同様に感動です。年齢・性・体力のみならず経験・技術・感性に応じて十人十色の活動があります。

 

皿が峰愛大小屋改修:松山市近郊里山のオアシス。

皿が峰愛大小屋改修:松山市近郊里山のオアシス。

 これまで大学の山岳活動は、輝かしい成果と多くの優秀な人材を輩出してきました。しかし、近年では課外活動としての山岳活動は全国的に低迷し消滅しつつさえあります。様々な要因がありますが、一旦伝統が途切れるとこれまで蓄積されてきた知識・技術が失われ復活は容易ではありません。この様な状況で、山岳活動経験者による要所要所での支援は初心者にとって意義のあることだと思われます。
 近年は中高年者の山岳活動はますます盛んとなり若年初心者への支援をボランティアとして積極的に行える状況です。具体的には、アドバイスだけでなく、山行の立案、計画、装備調達に始まり、車での移動等々が含まれるでしょう。豊富な経験に基づく初心者への安全・技術講習は、野外活動一般の危機管理ともなるでしょう。私たちの活動の基本は、これら多様な人材の活用にあると考えています。

研究の魅力

 私は自然との関わりを趣味にもしている者の一人ですが、活動を通じて自己満足だけでなく参加者の教職員学生一般社会人と共に充実感や喜びを分かち合えることは大きな楽しみであり魅力です。総合健康センターの“こころと身体の健康”作りを支援するという業務の一環とも解釈でき、“趣味と実益”です。
 活動の主要部分は一般研究と異なりボランティア活動で成り立っており、申請・予算・報告等々の拘束を受けない自由な活動です。性年齢を問わず、生涯スポーツへの第一歩となることを願っています。

研究の展望

 野外活動に対して特別に興味を持つ学生は一定程度存在し、この数年はむしろ増加傾向です。しかし、今日、大学山岳部等の伝統は途切れ、初心者の受け皿が薄くなっています。また、山岳活動を指導できる顧問教員を確保することも困難になりつつあります。
 この様な状況に対して、学内外の支援組織の協力体制の構築は意義深いことと思われます。メイル等を通じた緩い関係の支援グループ間ネットワークを構築維持し、ニーズに応じて交流を深められれば双方にとって得るところが大きいと思います。どのような体制が相応しいのか、現在模索中です。

この研究を志望する方へ

 自然との関わりは趣味でもありますが、単なる暇つぶしではありません。体験・体感を通じた学習そのものです。独りで身の回りの自然を楽しむこともでき、一歩踏み出して里山の、さらに山や海外へと探索するのも良いでしょう。初心者の最大のハードルは、最初の第一歩だと思います。しかし、歩むうちに楽しさが後押ししてくれ一生涯の付き合いとなるでしょう。