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2017.08.30
疫学研究で病気を予防しよう!!
医学系研究科 / 教授 三宅吉博 / 専門:疫学・予防医学

※記載内容は掲載当時のものです。

病気の予防や治療の実践には、疫学研究によるエビデンスが必須です!!

 疫学研究って何ですか。

 医学研究は大きく2つに分けることができます。一つはiPS細胞の開発が代表的ですが、細胞や動物などを対象として実験室で行う分子生物学です。もう一つは人の集団を対象とした疫学研究です。疫学研究では実際に人で効果があるのかどうかを調べます。
 例えば、「喫煙が肺がんに良くない」や「運動が糖尿病などの生活習慣病に予防的である」などは、疫学研究によりわかったことです。このように、疫学研究は人々の生活のありふれた場面でとても役に立っています。

 一方で、ラジオやテレビで「・・・(商品)は・・・(例えば膝)に効果があります」など、よく聞くフレーズです。ただし、実際にこの商品の効果が疫学研究で確かめられずに商品化している場合も多々見受けられます。
 我々の講座では、疫学研究により、様々な病気の原因を調べて、病気を予防する方法の確立に貢献したいと考えています。

 最近、医療の現場では「根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine: EBM)」が推進されています。この根拠とはまさに疫学研究による成果のことです。疫学の理論と方法を十分に理解した上で、「根拠に基づく医療」を実践できる医療人が求められています。さらには、医療の発展に貢献するため、臨床における疫学研究を推進し、この根拠を創出することができれば、大変楽しくやりがいのある医療人生を送ることができるでしょう。

 

研究の特色

 平成19年より実施している「九州・沖縄母子保健研究」を紹介します。平成19年度の1年間、九州・沖縄の産婦人科を通じて、妊婦さんに調査参加を依頼し、最終的に1757名が調査に参加しました。妊娠中の調査では、食習慣などの生活習慣、生活環境、既往歴、社会経済状況等に関する質問調査票に回答頂きました。以後、出生時、生後4ヶ月時、1歳時、2歳時、3歳時と8歳になるまで毎年、質問調査票にご回答頂きました。生後1歳までに母親の口腔内チェックと母子の口腔粘膜細胞を採取し、遺伝子検体を得ています。

 これまで、妊娠中うつ症状、出生時低体重、産後うつ症状、母親または子供のアレルギー疾患、母親の歯周病、子供のう歯、子供の発達を結果因子として、これらの結果因子に影響する生活習慣や遺伝子多型などを調べています。

 膨大な情報を得ているため、数多くの根拠(エビデンス)を創出することができます。例えば、大豆、イソフラボン摂取と妊娠中うつ症状との間に予防的な関連を認めたこと、牛乳摂取が産後うつ症状に予防的であったこと、母親の妊娠中の喫煙と妊娠中の職場での受動喫煙が子の行為問題及び多動問題のリスク上昇と関連していること、母親においてIL4遺伝子多型がアレルギー性鼻炎と関連していることなどを明らかにしました。

 

 その他の研究プロジェクトとしまして、難病であるパーキンソン病や潰瘍性大腸炎の発症原因を調べるため、症例対照研究という手法を用いた疫学研究を実施しています。

 平成27年度より、愛媛県内の中高年を対象とした「愛大コーホート研究」を展開しています。平成27年度は八幡浜市で、平成28年度は内子町で、平成29年度は西予市と愛南町で調査を始めています。最終的には愛媛県内で5万人以上の方々に調査にご参加いただきたいと考えております。「愛大コーホート研究」では様々な生活習慣病の原因を調べます。特に、認知機能低下に注目しています。

 

研究の魅力

 疫学研究の醍醐味として、「たったひとつの疫学研究では結論を得られない」ということが挙げられます。私共は世界で初めて妊娠中の牛乳摂取が産後うつ症状に予防的であることを報告しましたが、このことが真実であるかどうかはわかりません。真実ではなく、たまたま「九州・沖縄母子保健研究」のデータではそのような結果が得られただけかもしれません。今後、世界中の疫学者が牛乳摂取と産後うつ症状との関連を報告すると考えています。系統的レビューやメタ・アナリシスという手法を用い、国際的、国内的に複数の疫学研究で報告された同じテーマの研究成果を統合することで、真実であるかどうかの結論を得ることができます。

 コツコツと疫学研究を推進し、メタ・アナリシスに資するエビデンスを創出することが、予防医学の発展に貢献する重大なステップとなるのです。

 

今後の展望

 我々は愛媛大学先端研究・学術推進機構によるリサーチユニットに選定され、「アジアでトップクラスの拠点形成:疫学研究ユニット」を主導しています。前述の疫学研究を推進して、今後も膨大な情報を収集しつつ、数多くのエビデンスを創出していきます。特に取り組みたいことは、カルテ情報を疫学データに組み込むことです。最近、法律が改定され、間もなく医療ビッグデータが本格運用されます。この医療ビッグデータはカルテ情報を多人数集めたものとなるでしょう。我々はこのビッグデータより人数は少なくなりますが、カルテ情報と従来の疫学情報を統合させることで、情報の範囲はとても広くなります。この長所を活かし、様々なエビデンスを創出したいと考えています。

 

この研究を志望する方へ

 欧米では、医学部と独立して公衆衛生学部が存在します。公衆衛生学部は様々なバックグラウンドの方が修士課程に入学できます。
我々も公衆衛生修士号を取得できるプログラムを愛媛大学で展開したいと考えています。それを待つまでもなく、疫学を学びたい方にその機会を提供したいと考えています。臨床医など医療系だけでなく、栄養や運動、心理学、統計を専門とする方が疫学に興味を持っていただければ大変ありがたいと考えています。

 日本人の疫学研究によるエビデンスはどの分野もとても欠乏しています。日本人の健康を増進するため予防医学の発展に貢献しましょう!!

研究者プロフィール