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最先端研究紹介 infinity

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2014.07.22
個人にあった糖尿病のオーダーメイド医療を目指して
大学院医学系研究科糖尿病内科学 / 教授 大澤春彦 / 専門:糖尿病

※記載内容は掲載当時のものです。

2型糖尿病の原因となる遺伝子の解明と個人に最適化した予防・治療への応用

 糖尿病は血液中のブドウ糖濃度(血糖)が高くなる病気です。体内で血糖を下げる唯一のホルモンがインスリンです。したがって、インスリンの作用が弱まると、血糖が上昇し、糖尿病になります。日本人の糖尿病の95%は2型糖尿病です。2型糖尿病は生活習慣病の代表です。   
DNAは、4つの塩基(A、C、G、T)の配列により遺伝情報を担います。DNA配列には、ところどころに、個人間で一つの塩基が違う場所があります。これを一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)と言います。SNPの中には、病気のかかりやすさや薬の効きやすさに影響するものがあります。SNPは、遺伝子に基づいて個人に最適な医療を提供するオーダーメイド医療のための有望なDNAマーカーです。
 私たちは、2型糖尿病原因遺伝子の候補として、インスリンの作用を低下させるレジスチンに着目しました。2004年には、ヒトの体内でのレジスチン産生量を左右するSNPとして、SNP-420を発見しました。SNP-420は、CかGの塩基をとるので、遺伝子の型としては、C/C、C/G、G/Gの3つになります。これらのうち、G/G型を持っている人では、2型糖尿病のリスクが高くなりました。実験によると、転写因子のSp1/3が、SNP-420がGの場合にのみDNA配列に結合し、レジスチンの産生を増加させました(図1)。また、ヒトにおいて、レジスチンの血中濃度が、G/G型で最も高いことがわかりました。さらに、一般住民において、血中レジスチンは、SNP-420がC/C<C/G<G/G型の順に高くなっていました(図2)。 

 また、血中レジスチンが高いほど、インスリンの作用が弱まりました。さらに、2型糖尿病において、血中レジスチンは、メタボリックシンドローム因子の保有数が多いほど高く、動脈硬化があると高くなっていました(図3、4)。

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図5

すなわち、レジスチンは、インスリンの作用を弱めることにより、2型糖尿病だけでなく、メタボリックシンドロームや動脈硬化のリスクを高めると考えられました(図5)。
現在、最新の研究手法を導入しながら、この独自の知見を生かして、遺伝因子と環境因子の血中レジスチンへの影響とレジスチンの生体内での意義についての研究を進めています。こうして、レジスチンSNP-420と血中濃度を用いた2型糖尿病のオーダーメイド医療の実現を目指しています。

研究の特色

 私たちの研究室で独自に発見したSNPというメリットを最大限に生かすように心がけています。このSNP-420がレジスチンの血中濃度を決める強さは、一般的な遺伝子の効果の20倍以上です。このような遺伝子のSNPと遺伝子産物である血液中の蛋白の強い関係は例外的です。さらに、遺伝子だけでなく、年齢、体重、食事、運動、喫煙といった環境因子が血中濃度に影響する可能性があります。すなわち、遺伝子と環境因子のそれぞれの効果、さらには両方の相互作用による効果を解明できる有力なツールであると考えています。

研究の魅力

 独自の知見を生かしているので、自らの道を自ら開拓していく充実感が得られます。糖尿病の研究は、歴史的にインスリンに関する研究が世界をリードしたことから、最先端を走っています。最近、レジスチンSNP-420の血中レジスチンへの効果は、日本人で見られる一方、白人では見られないことがわかってきました。この人種による違いが、実は日本人に固有の別のSNP-358によることを見出しました。このような日本人の特徴を生かし、SNP-420という独自の知見に最先端の技術の進歩を応用することで、独創的な研究を進めていけると考えています。

今後の展望

 原因となる遺伝子が2型糖尿病を起こすメカニズムを明らかにできます。それにより、予防法や治療法を個人の遺伝子情報に基づいて最適化する“オーダーメイド医療”が実現できます。具体的には、遺伝子検査で糖尿病のなりやすさを判定し、なりやすい人には、食事や運動などの生活習慣改善を促すことにより、予防できるようになります。また、糖尿病患者さんには、遺伝子検査により糖尿病のタイプを細かく分類し、効果が出やすく、副作用が出にくい最適な薬を選択できるようになります。

この研究を志望する方へのメッセージ

 研究とは知的挑戦とも考えられます。誰も証明していないことについて、自ら論理的に考えて仮説をたて、それを実験や臨床データの解析によって検証していく作業です。予想に反する結果がでる場合には、理由をよく考えると意外な発見が生まれることがあります。一方、思い通りの結果が出たときには、鳥肌がたつような感動を得ることもあります。また、日頃より、研究に関することを勉強し、よく準備していると、思わぬアイデアがひらめくことがあります。そうして得た結果を世界に向けて英語で発表し、真価を問うのはとてもワクワクするやりがいのある仕事だと思います。我こそはと思う人をお待ちしています。