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最先端研究紹介 infinity

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2014.07.04
環境問題に微生物学的観点から取り組む
沿岸環境センター生態系解析部門 / 特命准教授 濱村 奈津子(2015年3月任期満了) / 専門:微生物生態学、分子

※記載内容は掲載当時のものです。

汚染環境中の微生物資源を利用した新しい環境技術への貢献

 濱村先生微生物は自然界のあらゆる所に存在しており、この地球上に生命体が誕生した瞬間から、地球環境は微生物たちの活動によって変化してきました。自然界にいる微生物は現在でも地球上の生態系を維持していく上で重要な役割を果たしています。
 近年、我々人間の活動によって環境中に様々な有害物質が排出され、地球レベルでの環境破壊が問題となっています。自然界には多種多様な微生物が存在し、環境を汚染している有害物質の浄化や無害化作用などの重要な役割をはたしています。私達の研究室では、環境中の微生物資源やゲノム情報を利用し、環境浄化に役立つ機能の探索や汚染物質の生態系へ及ぼす影響を調べています。

研究の特色

 土壌1グラム中には10億匹以上、1ミリリットルの海水中には10万匹以上の多種多様な微生物が存在しています。これまでは、これら環境中の微生物のうち実験室で培養できるのは1%以下で、99%以上の菌に関してはその機能や性質も明らかにされていませんでした。近年、最新のDNAシーケンス技術を使って、環境にいる微生物全ての遺伝子情報を解読するメタゲノムや遺伝子の発現応答を検出するメタトランスクリプトームなどの‘オミックス解析’が可能となりました。
 私達は、最新の環境オミックス手法を汚染環境の解析に応用して、微生物が汚染環境にどのように適応し、汚染物質の浄化や毒性低減化に関与するのかを遺伝子レベルで調べています。膨大な環境オミックス情報には、汚染などの環境破壊に対する微生物達の生存戦略が隠されています。このような新しい分野のビッグデータを解析するために、バイオインフォマティクスのツール開発から取り組み、様々な微生物種がお互いに関係しあって機能し汚染環境に適応している、これまでに見えなかったレベルでの包括的な解析が可能となりました。
  また、生物にとって有毒な汚染物質ですが、汚染環境にはその有害物質を利用して生育する微生物も多く存在します。そこで、有害物質を生物変換できる新規な微生物機能の発掘にも取り組んでいます。これまで、重金属を高濃度で含むイエローストーンの温泉群(アメリカ)や、モンゴルの塩湖、鉱山跡地などから、ヒ素やレアメタルでもあるアンチモンを変換する新規な細菌の培養に成功してきました。特に猛毒のヒ素などの重金属類は地殻に多く含まれる元素であり、環境条件の変化や微生物の活性によって地下水へと溶出し、汚染被害を引き起こすことがあります。このような自然由来の汚染が起こる機構については不明な点が多く、特に微生物の関与については明らかにされていません。そこで私達は、ヒ素や重金属を代謝する新しい微生物を見出すとともに、環境ゲノム解析を使って汚染物質の毒性を左右する微生物の環境中での働きを調べています。
 草も生えない汚染された鉱山跡地や、真っ黒な重油で汚染された海、100度近い熱湯が吹き出す温泉、このような環境でも微生物は活動を続けていますが、ミクロの世界での活動は目に見える自然の営みにどのような影響を及ぼしているのでしょうか?私達は環境分析、先端のオミックス手法や微生物生理・生態解析を取り入れて、この問に取り組んでいます。

図2

現地調査はチームワークが大事。モンゴル大学の共同研究者の先生や学生さん、地元の子供から大人まで、好意的に協力してくれます

図3

 

図1

研究の魅力

 土、水、空、海、 あらゆる所で肉眼では見えない微生物達が活動して、この自然環境を形作っています。今私達はミクロレベルの解析技術を手にし、ようやく微生物達が活躍する未知の世界へと漕ぎだしていけるのです。人間は未知の世界に惹かれ、あらゆる地球上の環境そして現在は宇宙まで探索し続けています。 様々な環境に適応し生存する戦略を進化させてきた微生物達、彼らの住むミクロの世界は未だ私達の常識を覆す発見で満ちており、まさに生命の神秘を感じます。
 また、フィールドでの実地調査で微生物が生活している環境を肌で感じ、ある時は大自然の中で、またある時は研究室の片隅で、ミクロ世界での彼らの活躍に思いを馳せる、そんな時間が私にとっては大事な研究のモチベーションになっています。

図5

山肌がむき出しになっている露天掘りの金鉱(モンゴル)埋蔵量が多く開発が進んでいますが、そのぶん、環境への影響も大きいです。

今後の展望

 私達をとりまく自然環境を維持していくうえで重要な役割を担っている微生物生態系。その複雑な機構を解き明かすことによって、汚染や環境変動の及ぼす影響を予測し自然環境を回復する技術の開発と繋がります。このような自然に存在する微生物の機能を利用する環境バイオテクノロジ−は、環境負荷も小さくコスト面においても持続的発展が可能な社会に向けて期待される技術です。
 人と自然、自然と微生物はお互いに影響しあって変化していきます。それぞれがバランスを保ち、調和のとれた生態系の構築に向けて役立つ研究を目指しています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 私達の研究では、国内外のフィールド調査から遺伝子レベルの解析を含め、微生物学を主軸に幅広い分野の研究者と交流していきます。 そのなかで、柔軟な考え方や視点を持ち、自分自身の意見を主張できるが、また相手の意見にも耳を傾け議論を深めていく、基本的ですが大事な事です。
 研究を進める上で思ってもみない結果が出ることも多く、これまでの常識にとらわれすぎずに発想を転換することも大事ですし、自分の建てた仮説を論理的に検証し証明できる能力が身についていきます。
 自然の中のミクロの世界には、まだまだ未踏の地が広がっています。一緒にそんな世界を探検しに行きませんか?

図6