銀河進化の観測的研究
※掲載内容は執筆当時のものです。
銀河中心に潜む巨大ブラックホールの起源に迫る
宇宙には、太陽のような恒星を数千億も含む銀河が無数に存在しています。そしてこうした銀河の大部分は、その中心部に太陽の数百万倍から数十億倍にもおよぶ質量を持つ巨大なブラックホールを持つことが知られています。しかし、これらの巨大ブラックホールが宇宙開闢から現在に至る138億年の間にいつどうやって形成され進化を遂げてきたのかは、今なお未解明のままです。また近年の研究により、巨大ブラックホールが自身を宿す母銀河と相互に影響を及ぼし合いながら進化を遂げてきた(共進化)ということが指摘されていますが、その物理は全く分かっていません。我々の研究グループでは、この現代天文学に残された未解決問題である巨大ブラックホールの起源と共進化の問題に対して、大規模な国際共同研究によるチャレンジを展開しているところです。
研究の特色
巨大ブラックホールの進化を議論するための最初のステップは、宇宙の各時代にどんな質量を持つ巨大ブラックホールがどれくらいの個数存在し、それらの質量増大率がどうなっているかを、観測的かつ統計的に調査することです。また銀河と巨大ブラックホールの共進化に迫るためには、母銀河の物理化学状態を分光学的に調査する必要もあります。こうした調査を進めるため、ハワイのマウナケア山頂に設置された国立天文台すばる望遠鏡、あるいはチリ北部の砂漠地帯にある国立天文台アルマ望遠鏡や欧州南天天文台の望遠鏡など、世界中にある大口径望遠鏡を駆使して観測を展開しています。また、巨大ブラックホールの起源解明という大きな目的を達成するために、プリンストン大学・台湾中央研究院・ケンブリッジ大学・フィレンツェ大学・ソウル大学などの世界中の関連研究者と密接な共同研究を行うことで、大規模な巨大ブラックホール探査プロジェクトを実現したり電波からエックス線まで全波長帯での調査を進めたりしています。
研究の魅力
今世紀に入り、すばる望遠鏡などの口径8-10m級の大型光学望遠鏡や、アルマ望遠鏡のような大型電波干渉計が動き出したことで、100億光年以上も遠方にある天体の観測が一気に進展を遂げてきています。100億光年先の天体を調べるということは、100億年前に放射された光を今捉えていることに相当しますので、100億年前の宇宙の様子が分かります。すなわち、遠方天体の観測を進めることで昔の宇宙の様子が見えてくるのです。自分たちの観測により、宇宙誕生後わずか十数億年後の宇宙における巨大ブラックホールが光を放射している様子が見えてきた時、あるいはその母銀河の物理化学状態の診断が進み共進化過程の一端が捉えられた時、人類の宇宙に対する理解のフロンティアを切り拓いていることが実感できることは大きな魅力です。また、国際共同研究を進めたり様々な国際研究会で研究発表や議論を行ったりする中で、世界中の天文学者と時には競い合い、時には手を取り合いながら研究を進めていくことも大きな魅力です。
今後の展望
今年になって、すばる望遠鏡に搭載された新しい超広視野カメラが本格運用を開始し、遠方宇宙の探査が格段に進展すると期待されています。また、数年前に観測を開始したアルマ望遠鏡も、ミリ波・サブミリ波と呼ばれる高周波電波帯での天文観測に革新的な進展をもたらしています。更にもう数年経つと、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェームスウェッブ宇宙望遠鏡や集光力ですばる望遠鏡の10倍以上の性能を持つThirty Meter Telescopeが観測を開始します。このように次々と宇宙を見る新しい目が登場しつつある中、巨大ブラックホールや銀河がどのように生まれ育ってきたのかといった謎が明らかになる日も近づいてきているといえるでしょう。
この研究を志望する方へのメッセージ
天文学の研究を行うためには数学や物理学の素養が必須ですが、データ解析に必要なプログラミングの知識や国際共同研究に参加するための語学力なども求められます。研究を進めるために様々な勉強を行い、広く知識を蓄積していくことに対して意欲的に取り組んでいくことが必要な分野だといえるでしょう。しかし天文学者を志すためにもっとも大切な素養は、未知の現象や存在に対して素直で素朴な好奇心を持つことができ、その理解に迫るためなら何でもしてやろうという強い好奇心と行動力だといえます。この世界の謎を暴いてやる、宇宙の果てまで調べつくしてやる、という強い野望を持つ元気な若い方がこの分野に参入してくるのを、心からお待ちしています。