文化による地域活性化を考える

寺谷先生私の専門は、近代以降に開発や植民が本格化したアフリカや北海道などの新開地都市を研究する都市地理学であり、さらに世界の酒類の生産・流通・消費や飲食文化を研究する酒・盛り場研究です。また、法文学部地理学教室を主宰し、地域との連携事業を実践する「愛媛大学地域創成研究センター」長、「アジア・アフリカ交流センター・モザンビーク交流推進班」長も兼務しています。

 

研究の特色

都市研究とアフリカ交流

 私のフィールドは、東・南部アフリカ地域のケニア、モーリシャス、モザンビーク、南アフリカ共和国などです。これら各国の都市は、ケニアの首都・ナイロビは植民地鉄道会社本社が設置された1899年に誕生するなど、歴史の新しい新開地都市が多いのです。アフリカ都市では、急速な都市化にインフラの整備が追いつかず、スラム地区の拡大が顕著であり、最大のものは都市周辺部に立地します(先進国のスラムは都心周辺に立地)。都心地区の土地利用は、国の経済水準によって大きく異なり、例えばモザンビークの都市では、老朽化したオフィスビルや低層商店街があり、道路沿いは露天商や行商人で一杯です(表、写真1)。
 またケープタウンでは、民族(黒人、白人、アジア人、混血)別の住み分けが顕著であり、私は都市の内部構造や都市住民の居住地域特性、都市郊外に展開するワイン産業を調べています(写真2)。

表1

 愛媛との関わりでいえば、モザンビーク国との交流は特記すべきです。最初は松山のNPOの活動から始まったのですが、市民、大学、民間へと交流活動は年ごとに深まっています。愛媛大学は2009年3月にモザンビーク北部のルーリオ大学と学術交流協定を結び、本年1月には安倍首相のモザンビーク訪問に私も随行し、ルーリオ大学との交流を5年間延長する2者協定、さらにモザンビーク教育省とJICAを加えた学術交流・人材育成に関する4者協定を締結しました。

酒・盛り場研究

写真3-1

写真3:愛媛大学ブランド「媛の酒」の完成(島田酒造にて)

 愛媛産日本酒の期待は、2006年に誕生した愛媛初の独自酒造好適米「しずく媛」です。私は、「しずく媛」酒開発のために、「若者がどんな日本酒であれば飲むか」を学生とともに研究して報告書にまとめました。今年で5年目の愛媛大学ブランドの特別純米酒「媛の酒」は、大学附属農場の無農薬米「松山三井」が原料ですが、毎年学生と稲刈り、仕込み、搾り、ビン詰めを手伝っています(写真3)。

 2011年、愛媛初のワイナリー「内子ワイン」が誕生しました。内子町にはすでに、日本酒、どぶろくもあり、Iターン者によるチーズ製造も始まりました。私がコーディネータートを務めた内子座でのシンポジウムでは、町民や学生とともに、飲食文化を活かしたまちづくりを検討しました。
 わが国の地方都市では、中心商店街などの都心地域の衰退が深刻な問題です。飲み屋街の重要性については、1)都心を志向し、都心の広域スペースを占有すること、2)地酒や地域特有の肴を楽しめる飲食文化の供給拠点、3)来訪観光客が多く、訪問都市イメージの形成要因となるなど、数多くあります。松山の二・三番町界隈の飲み屋街の面的な広がりは、都市規模では格上の広島とほぼ同等と広域であり、その活用は松山の大きな課題です。一昨年夏のNHKテレビ番組「近ぶら」(ブラタモリの松山版)では、私は芸人の友近さんを案内しながら、二・三番町界隈の特徴と歴史を解説しました。

研究の魅力

写真4

写真4:藻塩「弓削塩」工場での聞き取り調査の様子

 地理学の魅力はフィールドワークです。実際に学生と一緒に地域へ出ると、様々な出会いがあり、様々な人から聞く話や現地調査は、新鮮で発見だらけです。都市研究や酒文化研究は、地元資源の発掘や再評価、地域資源を活用した事業など、まちづくりや地域活性化に直結します。近年、地理学教室では、鳥取市、高松市、徳島市、弓削島(写真4)へ巡検調査に出かけ、それぞれ報告書をまとめました。

研究の展望

 現在はグローバル化時代であり、県内の産業や文化も、日本各地や世界の情勢や動向に大きな影響を受けています。町内会から愛媛県、日本全体、さらにはアフリカのことについても自然環境を含めて議論・考察できる柔軟性が、地理学の長所かつ魅力です。大学が地域と関わる地域貢献活動は、今後ますます重要なものとなるでしょう。

この研究を志望する方へ

 高校までの社会科・地理とは異なり、大学の地理学はフィールドワーク調査が中心です。あなたも、一緒にあちこちへ出かけ(野外巡検多し)、お酒を酌み交わしながら議論し(卒業生などの来訪や飲酒行事多し)、地理情報システム(GIS、パソコンで調査結果を図化する技法)で地図をつくって考える、伝統ある地理学教室(本年地理学教室創立50周年)の一員になりませんか。